「飯野、会ったついでにこれ渡しとく」
「おー、倉橋サンキュー」
ゼミの教授の授業が終わり、飯野と同じ大学祭実行委員の倉橋が飯野への用事を済ませている。やっぱ腐ってもコイツ大祭実行じゃお偉いサンなんだな、どっからどう見てもアホなのに。
「なあ倉橋、大黒和葉って誰だっけ」
「はあ!? アンタこないだクロちゃんクロちゃんって呼んでなれなれしくしてたじゃん」
「あ、クロちゃんか! わかった、了解」
「つーか飯野、お前いくら人数多いっつっても大祭実行の連中の名前くらい把握しとけよ」
「あだ名は把握してんだけど、本名となるとどうもなー」
そう言って、飯野はもらった書類に付箋を貼り付けた。おそらく、付箋にはその書類にある名前に対応するあだ名が書かれているのだろう。まさか、そうでもしないと覚えられないのか…?
「バカだから、飯野は」
「何だと! あだ名は把握してるだろ!」
「じゃあちゃんとした書類に名前書いてもらうときも本名の横にあだ名書かせるって言うの?」
「それはスイマセンでした!」
「バーカ」
この件に関しては完全に倉橋に同意するしかない。飯野はバカだし、書類にいちいち本名とあだ名を書かせるっつーのもどうかとは思う。そもそもあだ名だってひとつとは限らないだろう。
ただ、本名を知らなくてもあだ名っつーか呼び名を把握していればある程度やっていけるのが大学であり、MBCCでも通じるところがあるから飯野の言うことがわからないでもない。
「つーか本名を知らなくたって仕事に支障がなければオッケーだから! 実際俺は今支障ないし!」
「アンタがバカだからみんなが合わせてくれてるんでしょ」
「つか飯野、お前その調子だと割と交友範囲の少ない高校まででも本名知らないまま付き合ってたとかそんなのあるんじゃねえのか」
「バリバリ」
「マジか」
「俺、高校でも文化祭実行委員だったんだけど、そんとき生徒会にいたロイド君て子とよくやりとりしてて、結構気の合う感じだったのな」
飯野が言うところによると、そのロイド君とやらともノリと勢いで仕事をしていたから、本名がどうとかそんなことを聞く暇もなく。また、相手の方も本名を名乗らなかったからずるずると行ったと。
周りから見るとめちゃ仲が良くて、文化祭実行委員と生徒会のパイプはいつの間にあんだけ太くなったんだと感心されるほどだったとか。それでも互いに本名は知らなかったんだから本名くらい何だ、というのが飯野の主張だ。
「ロイド君とは有志ステージの企画で一番盛り上がって、寝ずに作業してたのなんかすげー覚えてんだけどな。MCの台本とかメールでずーっとやりとりしてたりして。授業中も机の下でメールしてたもんな」
「アンタ、ロイド君のアドレスとか携帯にどう登録してんの」
「ロイド君で入ってる。本名で表示してもわかんねーから」
「それこそ括弧書きにすりゃ良かったんじゃねえのか、ロイド君(本名)もしくは逆っつー感じで」
「4年前に言ってくれよ高崎いいい!」
「バーカ」
「ロイド君に電話して今すぐ謝れ」
「倉橋てめー!」
結局、飯野がいっぺんにいろんなことを覚えるのは無理だろうという結論に達してそれ以上は不問とした。本人が困らないって言ってるんだから困らないのだろう。
ただ、倉橋がうるせえから黙っていたけど、俺もインターフェイス関連じゃ本名どうこうよりDJネームをわかってりゃ支障がねえ奴もいるにはいたから、本名なんか別にと思うこともある、というのはここだけの話だ。
end.
++++
飯野の名前の覚え方やら高校の友達の話。飯野にはロイド君という友達がいた模様。寝ずにステージの打ち合わせしてるとかコワイナー
最近書いてる安部ゼミの話で何が1番違和感かと言うと、高崎が真っ当に出席していること以外にない。でも安倍ゼミの話と見せかけて安倍ちゃんの授業の話なのでセーフ。
何だか最近アホアホ言われてるキャラが増えたような気がするw でも飯野は元々残念系おつむの代表格だからセーフ。