公式学年+1年
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「君たち、オープンキャンパスに向けた準備は進んでる?」
「はーい」
いよいよ世間的な夏休みが近付いてきたなと思う。佐藤ゼミが実質占拠してる緑大8号館地下1階のスタジオは相変わらず季節感も時間の感覚も奪うけど、その活動が夏を告げる感じはある。
夏休みに入った高校生のイベントと言えば、興味のある大学を見て回るオープンキャンパス。緑ヶ丘大学では7月の3連休に結構な規模で行われていて何気にバタバタする。
毎年このオープンキャンパスの時期はブースを立ち上げて、ゼミの活動紹介も兼ねて高校生に向けたラジオ番組をやったり、インフォメーション放送で案内している。ちなみに大学の公的な活動だから謝礼も出る。
「謝礼が図書カードなの地味に超ありがたい」
「図書カードなー、安曇野みたいな奴には需要あるけど俺本とかあんま読まねーじゃん? オリエンテーションん時も地味にこれどうしようっつって結局教科書になったっつー」
謝礼と言っても大学の公的な物だから、現金じゃなくて図書カードに化ける。個人的には現金の方がありがたい。本よりはCDを買うし、図書カードじゃCDを買うにも店を選ぶから。
この図書カードがまた人を選ぶ謝礼なのは見ての通り。本をよく買う安曇野さんや佐竹さんには嬉しい物だし、本をあまり買わない鵠さんには使い道に少し困る。俺は前述の通り。
「高木クンは本とか買う方だっけ」
「たまにギターのスコア本を買うくらいで、他はあんまりかなあ。あ、でも部屋に料理本とかがあってもいいかな」
「つかお前料理あんましねーっつってたじゃん?」
「友達が来たとき用に」
オープンキャンパスの謝礼としてもらえる図書カードで料理本を買う。それで、食べたい物のページを見せてこれが食べたいですと伝えたらエイジが作ってくれたりしないかなという淡い期待。
すると、安曇野さんから思わぬところで思わぬワードが飛び出る。軽音兼MBCCのカノンがMBCCにいるレフティの話を安曇野さんにもしているらしい。レフティというのはもちろんエイジのこと。ギターも左利き仕様だ。
「つーか作らす辺り高木だわ」
「自分でご飯作って友達もてなすって言わなくて許されんのなんか高木くらいだし」
「甘え上手なのかもしれないし彼女はしっかりしてて料理も上手な年上の人がいいかもね」
「千葉先輩か」
「千葉ちゃんだ」
「ちょっと何でそうなるの」
「必然じゃん?」
「異議なし」
図書カードの話からどうしてこうなっちゃったかなあ。せっかくMBCCの方ではこの件に持ってこうとする先輩たちが引退して穏やかな半期だったと思ったのに今度はゼミで始まっちゃったよ。
「佐竹さん、ちなみに今のは振りではなかったよね?」
「ゴメン、他意はなかった」
「って言う割に面白がってない?」
「いいじゃんいいじゃん、それだけ高木クンと千葉先輩が仲良いってことだし」
「仲が良いのは嬉しいけど付き合うとかそういうんじゃないからね、って言うかそろそろオープンキャンパスの話しよう!」
手元の資料を勢い良く机に打ちつけて、脱線の原因となっていた図書カードの話を強制終了する。はー、顔があっつい。久々にこの件やったからちょっと慣れないや。
「やっぱ高木のイジり過ぎは危険だな」
「ボーダーを見極めるし」
「ちょっと鵠さん安曇野さん俺をイジる気マンマンじゃん」
end.
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図書カードの話がどうしてこうなった、なヒゲゼミのタカりん冷やかし回。それもこれもご飯を作らすタカちゃんが悪い。
元々昨年度末に上げる予定だったのでタカちゃんと果林がそこそこいい感じに見えている時期だったんだろうけど、この時期でも大して変わらなかったという罠。タカりんは大正義。
そしてこのままいくと本を差し出されてご飯を作らされるエイジである。うん、まあ、この時期だから対策委員の会議後とかに泊まり込んでいいんじゃないかな!!!