ヒロさんが入院してから約2ヶ月。今ではもう退院出来たようだけど、春学期は捨てて秋学期からの本格復帰に向け療養しているらしい。
AKBCをそれらしく活動させていたのは他でもないヒロさんで、ヒロさんがいなくなってからは元々なあなあだったサークルはさらになあなあになった、気がする。
ヒデさんもヒロさんの穴を埋めようと頑張ってるのは2年の俺から見てもわかるけど、それでもヒロさんよりはちょっと頼りない感じがする。
「まっつん、次どーしたらいい?」
「あ、えーと、どうしようね」
もし2・3年生がヒロさんにそんなことを聞こうものなら「自分で考えれるでしょ」と一蹴されるはずだ。ヒデさん、例によっていっぱいいっぱいだなー。
「あ、ツルさんそれなら俺撮って来たの編集してもらっていーすか?」
「オッケー」
そうと決まればパソコンを立ち上げ、データを移していく。青敬のサークルはラジオだけじゃなくて映像制作の活動がメイン。
俺はと言えば、ヒデさんが病院から持ち帰って来たヒロさんのノートを元に、それっぽい作品を作ってみている。生き物とか植物とか、自然とか生きた物を集めた作品。
とは言え俺は編集がそこまで上手くは出来ないから、やっぱりミキサーさんの力を借りることになる。今お願いしたのは3年生のパねえ凄腕、朝倉千鶴先輩。俺はツルさんって呼んでる。
「へー、風景ドキュメントみたいだね」
「多分そんなような感じっす」
「多分?」
「これ、ヒロさんが入院中に描いてたっていう原案なんすよ。どういう意図で絵コンテを描いたのか聞いてないんで、解釈は我流っすけど」
「宏樹にしちゃあ瑞々し過ぎるねえ」
我流の解釈ってのが行き過ぎてんじゃないのかい、とツルさんは俺が参考にした絵コンテノートを見せてくれと言った。編集する側も元を知っている必要がある。
ただ、俺は割と絵コンテノートを忠実に守って素材を集めて来たと思っている。そのためにどんだけ山や川を歩き回ったと思って。いや、好きだからいいんだけどさ。
「その辺に霊でもつけときゃいいかね」
「ちょっ、そんなことしたらまたヒロさんとケンカになりますよ」
「宏樹アイツ意外と頭カタいんだよなー、遊び心ってのがわかってない」
「まあ、ヒロさんはガチでやってる人なんで「逆に」なんじゃないすか」
ツルさんはオカルトとか都市伝説みたいな物を信じてなくて、そんなモンはいくらでもメディアで捏造できるから、と自分でもそういう作品を量産している。
逆に、ヒロさんは呪いの民俗学を専攻にしているだけあって考えるところがあるらしく、あまり軽々しく心霊現象なんかを玩具にするべきではないという考え方。
ヒロさんとツルさんのちょっとした争いが見られなくなってからも久しい。争いとは言え、ヒロさんの有無を言わせないオーラに圧倒されてツルさんが謝るところまでがテンプレだ。
「アタシの考えじゃ、コンピューターグラフィックスの心霊表現はトリックであって、実在の霊の冒涜には当たらないと思うんだけどねえ。何も墓掘り起こしたとかじゃあるまいし」
「俺もその辺の詳しいことはわかんないんすけど、障らぬヒロさんに祟りなしすよ」
「恐怖を煽るのはいつだって人間だ。創作活動の結果じゃないか」
ああだこうだと言いながらも、ツルさんはヒロさんの原案に沿った瑞々しい映像を作ってくれる。これを見たら、ヒロさんは何て言うだろう。
「大体、宏樹の呪い話だって過剰にムード作りから始めやがるところが――」
「それは言わない約束っす」
end.
++++
青敬に登場した女子キャラのツルさんです。長野っちとはやり合いながらも仲はさほど悪くもない様子。サークルには来てくれるからね。
あれから長野っちは無事に退院できたようですが、春学期の授業には出られていない様子。ゼミとか本当に好きな授業だけは体の許す限り出てみる感じかしら。
と言うか入院してたんだからそれらしい手続きも取れそうな気がするんだけどどうして手続きとらないんだろうか長野っち