「よーし、できたー!」
うんと大きな伸びをして、書き上げた原稿をトントンと机で揃える。これでやっと次の段階へ行ける、そう思うだけで気分は晴れやか。
私が今書いていたのは所属してる映画研究会で作る自主製作映画の脚本。本来脚本なんて書く人の自由な気がするけど、もっと上の人から「抑揚がなさすぎる」ってダメ出しされましたよねー。
こんな調子じゃいつまで経ってもドキュメンタリー的な映像なんて撮れないよなー。ドラマも嫌いじゃないけど、ドキュメントをやりたいんだよねー。
「これであと提出してオッケーもらえたら次に行けるぞー! やったー!」
「……伏見、ちょっと黙れ」
「すみません」
そもそもここはゼミ室。自分以外にも人がいる。そしてやっていた作業が勉強のことじゃなくて部活のことっていうのがね。
だけど、アタシを睨みつけて来た朝霞クンだって言ってしまえばやっている作業はゼミやその他の講義には関係ない。部活でやってるステージの台本のはず。
「朝霞クンは、どう? 出来そう?」
「見りゃわかるだろ」
さっぱりわかりません。
「いいから俺には話しかけるな。気が散る」
朝霞クンは放送部でプロデューサーという役割の人で、ステージをそれこそ文字通り企画して演出する人。今は放送部の目玉イベントに向けた台本を書いているらしい。
あたしは元々放送部に入ろうと思っていた。ただ、見た感じは華やかだけど内情はドロドロって話を聞いて怖くなって映研に入った。
別の大学にいる幼馴染みにも、あずさがそういう殺伐としたところに行くイメージはないと言われた。でも放送部で活動してる人が近くにいると、ちょっと気になる。
「ひょいっ」
見えない。
「ちらっ」
見えない。
「だあああもういい加減にしろ! ちょろちょろすんな!」
「だって気になるんだもん」
「“もん”って言うなどいつもこいつも!」
うう、そりゃちょっとは邪魔したかなーって思わないことはないけどそんなに怒鳴らなくても。大体ここ、ゼミ室だし。干渉されたくなきゃ家でやればいいだけの話だもん。
「……で、何が聞きたい」
「えっ」
「5分だけ付き合ってやる」
朝霞クンはようやく観念してくれたのか(呆れたのかもしれないけど)ペンを置き、思いっきりイスの背もたれに寄りかかって腕組みをした。
ただ、そう言われると聞きたいことがわかんなくなっちゃう。あ、えーと、何を聞けばいいんだろう。映画とステージの台本の違いとか? あーもうわかんない!
「早くしろ」
「うう」
「ないなら俺は作業に戻るぞ」
「ちょっと待ってあのその、それっ、今書いてる台本って実際いつ見れるの!?」
すると朝霞クンは思いっきりもたれていた背中を真っ直ぐにして、ううん、前のめりになっている。もしかしてなんてこと聞いてんだってまた怒鳴られる!?
「8月アタマの土日だ。丸の池公園でやる。ウチの班は両日1時間ずつで、日で少し内容を変えるつもりだ。ただ、この台本がそのまま通るとも思ってないし、弾は多く持っとかないといざというときに替えが利かないからな」
「もしかして、いざというときに差し替える分も書いてる?」
「演者に全部アドリブでやらせろってか?」
「いぃえぇ滅相もない!」
それでだ、とステージと台本の話は続く。あたしは背筋をぴんと伸ばしたままだし、5分なんてとうに過ぎた。今更作業に戻らなくてもいいのと聴ける空気でもなく。
「あっ、あの朝霞クン、手間を取らせちゃ悪いしそろそろ……」
「実録ドキュメンタリーの現場」
「ははーっ、ありがたく聞かせていただきます!」
「でだ、放送部ってのは――」
end.
++++
もう練習も始まっているようだけど、弾は多い方がいいらしいのでひたすら書いている朝霞Pであった
伏見あずさ嬢。彼女にまつわるいろいろなことは少しずつやっていけたらいいなあと思ったり。ドキュメンタリー的な物をやりたいらしい。
しかしステージモードの朝霞Pの周りでこれだけちょろちょろ出来るというのは知らないってすごい