「菜月さん、スーパーに行かないかい?」
圭斗にしてはエラく所帯じみた誘いだと。ただ、圭斗がこうやって誘ってくるからにはうちにとってもオイシイ情報と、ウラがあるに違いないと思っていい。
「急にどうした、スーパーなんて」
「少し行ったところに大型商業施設がオープンするのは知っているだろう?」
「ああ、CMでもバンバンやってるな」
「そのおかげで近隣のスーパーも値下げまたはポイント還元戦争が勃発していてね」
「なるほど」
圭斗が言うには、落ち着いて買い物をしたいのは山々だけど、安さも魅力のひとつではあると。何をどのスーパーでどのように買うかも重要な要素だと、戦略はある程度立っているようだ。
うちなんて買い物をしたところでなかなか上手にも使いきれないし、大量に買えて精々保存食くらいだろう。それでも冷凍食品7割引は純粋に魅力だ。
「で、圭斗が純粋にうちに対する善意だけで買い物に誘う理由はないな。本当の目的はどこにある」
「ん、さすが菜月さん、鋭い。僕が料理によく使っている調味料が普通に買うより200円安いんだけど、おひとり様2点まででね」
「そういうことか」
「ん、お察しいただけたようで嬉しいよ」
保存が利いて、なおかつ絶対に使うものならこの機会に買いだめしておいて損はない。圭斗は調味料欲しさにおひとり様としてうちを利用する気のようだ。
こんなことでもないと家または駅から徒歩圏内にないスーパーには行けないし、重たい物も買えないからうちはうちで普段は買えないような物を買うことにしよう。頼りないけど男手だってある。
「圭斗、うちは冷凍食品も買いたいんだ」
「ん、わかったよ。回る順番は少し考えた方が良さそうだね」
「何買おうかな。こんなことならエコバッグ買っとけばよかった」
「あれ、持っていなかったかい?」
「持ってたんだけど、こないだ酒を詰めて歩いてたら持ち手が破れたんだ」
「どれだけ詰めたらそんなことになるのかな」
「めいっぱいだ」
「自業自得だね」
今日、スーパー巡りをするとするなら冷蔵庫を圧迫している缶チューハイやなんかには一旦お引き取りいただかなくてはいけないかもしれない。一応常温でも置いておけるものだし。
「とりあえず、ジャガイモとタマネギとニンジンは買っておいて間違いないだろうし、あとは、こんにゃくと春雨と温玉」
「コーヒーゼリーもお安くなってるみたいだよ。ひとつ20円だって」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ん、どこの野坂かな」
久々に大規模な買い物になりそうでいやにうきうきする。お金もいつもより多めに持ってみようか。どうせ盆になるまで帰れないんだし、しばらく戦えるだけの食料を買い込もう。
「1ヶ月家から出なくても生活できる買い物だな、今日の目標は」
「ん、まさか本当に引きこもりきりになるんじゃないだろうね」
「必要最低限は出るぞ」
「授業には出るんだよ」
「そこは学期末だし、ある程度は」
「完璧にとは言い切らないんだね」
僕もこの夏は忙しくなるし、簡単に食べられる保存食のような物でも少し買っておこうかなと圭斗も作戦を練り直している。果たしてこの戦争は生活をどう動かしていくのか。
end.
++++
しかし、圭斗さんの体力が削られるに従って生活は日に日に残念になっていくのであった
よくある菜月さん&圭斗さんの買い物戦争であります。利用するためとはいえ声をかけるあたりが圭斗さんのやさしさ…?(なワケがない)
そして菜月さん宅の冷蔵庫に関しては、冷凍食品が入っていなければ「いつ停電が起きても大丈夫」とのこと。ん?