「エイジ、俺決めたよ」
「おう、何だっていう」
「もうすぐテストだし、断酒しようと思う」
サークル室で、エイジと他愛ない会話のつもりでそう宣言した瞬間のこと。空間に激震が走る。何かおかしなことを言っただろうか。あ、未成年が断酒っていうのは確かにおかしいけど、それ以外に。
「高木、正気か」
「6月も中旬から下旬にかけてはなかなか授業にも出れなかったからね。堕落し始めるってこういうことなんだなあと思って」
「うん、まあ確かにお前の生活は日に日に残念になってる気はするけどだな」
「だから、規則正しい生活をするために断酒をしようと思って」
「規則正しい生活はいいべ? 問題は、お前に断酒なんか出来んのかっていう」
エイジだけじゃなくて、サークル室にいた人みんなが驚いていたのは俺の断酒宣言らしい。まあ、驚いた理由はさっきエイジから言われたようなこと。俺に断酒なんて出来るのかと。
MBCCというサークルが酒豪ゾーンと呼ばれていて、伊東先輩以外の人は大酒飲みだしザルという怖い団体だ。ビールの飲めない俺にはちょっとツラいところもある。
飲み会だけじゃなくて部屋でも日常的に酒は飲んでいる。買うのにちょっと冷や冷やするけど、一応はレジも通れる辺りある程度の緩さはあるのかもしれない。
日常的に飲んでいるものをテストだからと言って断つことが出来るのかと聞かれても、やったことがないからわからないとしか言えない。さすがにテスト期間はちゃんとしなきゃなあと思うには思う。
「え、って言うかみんな断酒しないの?」
「いや、つかみんなお前ほど日常的に飲んでないっていう」
「そうなの!? ハナちゃん!」
「ハナは休みの前の夜にちょっと飲むくらいだよー、しょぼーん」
「エイジ!」
「俺は最近じゃお前の部屋に行くときくらいだっていう」
「じゃあ結構な頻度じゃない」
「でも毎日寝酒するお前ほどじゃないべ」
酒を飲む頻度だけで言えば、高崎先輩でも毎日は飲んでいないとのことだから、それに関しては「そっかー」としか言いようがない。そうか、MBCCの人でも毎日は飲まないのか……知らなかった。
「タカシ、本当に断酒出来る? 大丈夫?」
「伊東先輩まで」
「タカシの場合、酒よりカーテンじゃない? 遮光なんでしょ?」
「はい」
「朝がきたってわかるように少しカーテン開けて寝たら?」
「そうですね」
「それがいい、それがいいべ。部屋のベランダで干しっぱなしになってる洗濯物の存在も思い出せて一石二鳥だっていう」
遮光カーテンの存在が俺の寝坊頻度を高めているのは事実だった。遮光カーテンと言うだけあって本当に朝がきたことがわからないのだ。夜の2時に寝て、真っ暗な部屋で起きたら昼の2時とかもある。
「寝酒するから起きれない、とかいうことでもないんでしょ?」
「そうだと思いたいです。まずはそれを検証してみてですかね」
ごくごく普通に言ったつもりなのに、みんなは俺に頑張れとどこか引いた声援をくれる。寝坊でテストを受けられなくなったら大変なはずだから。単位は早いとことっとけとも教わったし。
「タカシ、断酒はテストが終わるまで?」
「集中講義も入れたんでそれが終わるまでですかね」
「あ、集中講義取ったんだ」
「問題は、集中講義が1限からっていうところで。エイジ、うちに泊まり込む用事とかない?」
「ねーよ」
end.
++++
タカちゃんがだんだんタカちゃんになっていく課程である。タカちゃんがタカちゃんになっていくとそれはもう大変なことになるぞ!!!
酒豪ゾーンと呼ばれたMBCCとは言えさすがにみんながみんな毎日は飲んでいないらしい。……うん、まあ、さすがにねえ……。ハナちゃんは車にも乗るからほどほどだぞ!
集中講義を入れているということは、一般的なテスト期間が終わってからも単位との戦いは終わらないワケで、うん、まあ、1限もあるからねえ。ドンマイ!