「助けてノサカ! テスト前やよ!」
あー、今年も始まった。テストが近くなるとヒロが俺に縋りつき始めるこの現象が。求める物は当然ノートだとか未提出課題を手伝えとかナントカっていう、それ。
去年の春学期は俺も初めてのテストで不安だったからヒロと一緒に勉強したりしていたけど、秋学期になれば完全に毟り取られる側になっていた。
2年になれば要領も掴めるだろうしテストとどう向き合えばいいかもわかるはずだ。ヒロにそんな期待を少しでも抱いた俺が馬鹿だったのは認めざるを得ない。
ヒロは大学生活をゆるりと送る要領を掴んだらしく、テストとの向き合い方で言えば直前になって俺に集ればいいとか思っているのには違いない。
「野坂、アンタいつもこんな感じで付きまとわれてんの?」
「アタシも友達に助けてもらうことはあるけどここまでヒドくはないですよねー」
そう、何を隠そうヒロが俺に泣きついているこの現場、技術向上対策委員会の会議という、テストとはこれっぽっちも関係ない場だったりする。何故ここでやるのか。意味がわからない。
「逆にみんなどーやっとるんテスト対策」
「普通にやってりゃイケるだろ」
「オールSには聞いとらんよ他のみんなやよ」
そう言ってヒロが他校のみんなにマイクを向ける素振りをすると、みんな親切だから答えてくれるんだ。ヒロなんかほっとけばいいのに。
「第六感と人脈で」
「それをもっと具体的に言うんやよ果林。はい次ゴティ」
「つか文系と理系じゃ対策違うし俺らじゃ意味なくね?」
「何かが通じとるかもしれん。でも次ツカサ」
「出席してれば取れる講義の割合を増やしてみるとか」
「授業出たくないしボクノサカと合わせなどっちにしても死ぬんやよ! はい次つばちゃん」
「野坂の致命的な弱点握って強請ったら?」
「それが握れたら苦労しやんよ!」
「つばめ、悪知恵を与えないでくれ」
ヒロはわかっているのかいないのかわからないけど、向島大学の理系2年というのは勝負の学年だ。向島大学の理系は2年生で一旦足切り制度がある。平たく言うと、単位数が一定数ない場合留年。
俺は計算上春学期の単位が全部取れればこのボーダーを軽くクリアすることが出来る体だけど、ヒロは1年の時からサボりまくってるツケか、ちょっとヤバい。
「もー、みんな全然参考にならんやん!」
「一番参考になりそうなのが果林の“第六感と人脈”っていう既にボロ雑巾にしたヤツだしな」
「そもそも、ヒロはどうして会議の場で野坂に泣きついてんの? 大学でやった方が課題もすぐにやれるし効率がいいと思うけど」
「そうはゆーてもKちゃん、大学からずっとやっとんのやよ、でも効果ないからみんなを味方につけようとしてんよ。ボク対策の場じゃ結構ノサカのコト助けとると思うんやよ」
「ギブ&テイクのつもりだと」
「それやよ! さすがKちゃんやよ!」
確かに対策委員の場ではある程度助けられているとは思うけど、それとこれとは話が違うしここで助けると秋学期以降も大変なことになるのが目に見えているじゃないか。
ヒロは、啓子さんは自分の味方だときゃっきゃしているし、完全に勢いづいている。春は春で基本情報の試験前にぎゃあぎゃあと大変だったのに、これ以上どうしろと。
「Kちゃんはボクの味方やよ! ノサカ、ノートと課題をあれこれしてもらわんと!」
「言っとくけどヒロ、アタシ大学じゃそうやって泣きついて来てるサドニナを門前払いしてるからね」
「えー!」
「見たかヒロ、啓子さんがお前みたいな奴の味方なワケがないだろ反省しろ」
「それを言うなら野坂、アンタ今日も息をするように30分遅刻してるけど何して遅れたの」
「スイマセン課題やってから会議に行こうと1人で電車乗って寝過ごしました」
「アンタも反省しなさい」
結局この閑話休題は向島反省しろと片付けられ、話は本題に戻っていくのだ。夏合宿の前には越えなければならないテストという壁がある。けれどそれぞれの攻略法で乗り切るしかないのだ。そういう体だ。
end.
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テスト前のノサヒロ、いつものヤツ。今回は対策委員を巻き込んでいるよ! いい迷惑だ!
啓子さんはサドニナを門前払いにしてるって言ってるけど1年の最初なのにもうひいこら言ってるのかサドニナ……www
つばちゃん提案の「ノサカの弱味を握って強請る」という作戦は前にもそういう作戦で行くよ!って言ってる話があったけど結局見つからんかったヤツ。