「リピートアフターミー、規則です」
「規則です」
「退出願います」
「退出願います」
「ブラックリストに登録しました」
「ブラックリストに登録しました」
仁王立ちした春山さんがみんなの前に立ち、発声練習のように声を張る。後に続けと言う春山さんの後からみんなでわーっと言葉を続けて言っていくんだけど。
うん、何て言うか復唱する言葉が物騒なんだよなあ。確かにこれから情報センターは繁忙期に入っててんやわんやでうひゃーってなるらしいけど、物騒だ!
「川北ァ、声が小さいぞ! 規則です」
「きっ、規則ですっ!」
「冴、ブラックリストに登録しました」
「ブラックリストに登録しやした」
「春山さーん、これって何か意味があるんですかー?」
情報センターでバイトを始めて4か月弱くらいになるけど、テストによる繁忙期は初めて迎える。繁忙期は戦争だとは聞いているけど、ここまで物騒な練習をしなくてもとも思う。
「ふっ」
「林原さん?」
「川北、オレや春山さんはともかく、お前みたいに脅しに屈しそうな奴や土田のように対応を面倒がる奴にこそこの練習は必要だ」
「珍しいな、リンが私の行動に否定的じゃないなんて」
「本当に有効かどうかはともかく、川北のような奴には練習とは言え言わせてみることが必要だろう」
「――というワケでリンのお墨付きももらえたし、跟着我!」
テスト前はみんないっぱいいっぱい。自分の思うように行かなくってわーってなる人がいたり、友達と一緒に勉強したくてこういう施設でも無理を言う人は多いらしい。
施設利用に制限をかけるブラックリスト登録も1回やらせてもらったことがある。だけど、本当にいいのかなって思ってなかなか最後のクリックが出来なかった。
林原さんには、これも仕事だと割り切ることが必要だと教えてもらった。ブラックリストに登録されるからにはされるだけの理由がある、と。
さすがにセンター利用規約の一言一句覚えろとは言わない。だけど、規約を読まなくても普通に生きていれば身に付く最低限のマナーを守ってくれ。それがセンターの総意。
「話は戻りますけど林原さん、本当に利用者の人に脅されるんですか…?」
「罵声を浴びるし暴言は吐かれるしSNSなどで殺害予告を出されたりするがその程度、春山さんに比べればどうということはない」
「あっ、なーんだ春山さんより怖くないなら全然平気ですねー、心配して損しましたよー」
何だか気がラクになってあははと笑っていたまではよかった。ナチュラルにやらかしていたのに気付いたのは仁王立ちした春山さんがもわもわと物凄い圧を放っていたから。
「ほーう、川北ァ、誰が怖いって?」
「わーっ! ごめんなさいごめんなさいわざとじゃないんですー! 林原さん助けてください!」
「予行演習をしておけ」
「そんなー! ひゃー! 痛いっ! いたっ! あっ、助けてー!」
頭をワシッ、ワシッとカラスが襲い掛かるように掴まれて、痛いやら怖いやら。林原さんは悠々とミルクティーを飲んでるし!
「つか林原サン、殺害予告なンか出さレてんスか」
「どうということはない。それこそ春山さんに勝る脅威ではない」
「やァー、言いますねェー」
「星大でググって“情報センターのメガネ刺す”などと書かれていた日には久々に大笑いしたものだ」
「へェー。つか、ミドリは助けてーって叫べるンすから、何かあっても平気っちゃ平気なんじゃ?」
「それは気付かんフリだ」
end.
++++
ミドリがかわいければ大体情報センターは成り立つとかいうヤツ。土曜日で人があまりいないので練習も出来る、みたいなことなのだろう(適当)
リン様に殺害予告が出されているという件は1本使ってやりたい件でもあったのですが、これっくらいさらりと流すくらいの方がいいかなとスルー。
ふむ、冴さんはめんどくさい利用者に対する対応をめんどくさがるタイプなのね……うん、まあ、想像は容易である