仮にテスト期間であろうとさすがに日曜日にまでテストをやる大学はないだろう。そんなこんなで召集がかけられているのは祭の練習だ。エリア一帯で行われる踊りの祭。そのスタッフとしての練習。
向島インターフェイス放送委員会の定例会メンバーは否応なしに参加することになっているみたいだけど、スタッフは学生ばかりでもない。予定が合うのは土日くらいというのもわからなくもなく。
「あーっちいなー…!」
「やっぱり、猛暑日ともなると違うね」
「でも、俺たちはミキサーだからまだテントの下なだけマシだよね」
「それな」
2年生のメンバーは俺と直とテルの3人だけど、全員がミキサーだ。パートのバランスの悪さは今に始まったことじゃない。3年生だってアナウンサーに偏っている。
アナウンサーの先輩たちはこの雲ひとつない猛暑日の中、炎天下の下でステージMCの練習をしているというのだから。その暑さはテントの下で機材を触れる俺たちとは比べものにならないだろう。
3年生唯一のミキサーであるカズ先輩は、俺たち学生スタッフのPA(音響)部門リーダーとして上の人と打ち合わせをしたりもっとすごい機材の組立の手伝いもしたりして、ここまでくるとワケがわからない。
「L、ところでカズ先輩は?」
「あれっ、そーいや。休憩なのに」
テルが何やら別のところに視線を向けているから、意識が飛んでいるのかと思いきや、その視線の先にはステージ脇でアナウンサー陣の練習を見ているカズ先輩。
ミキサーは休憩の時間なのによくやるなあと。いや、本来はそのくらいでなければいけないんだろうけど。一応飲むものは飲んでるみたいだけど、休まなくて大丈夫なのだろうか。
「カズ先輩、タフだよね」
「ホントそれな」
「植物園のときの着ぐるみもハードだったけど、あれとはまた違うハードさだよ」
今は木陰の下で水分補給をすることだけに懸命。すると、だんだんとこっちに近付く声。暑さで少しぼーっとしていたからか、自分を呼んでいるのに気付くのにも少し時間がかかる。
はーいとやっと顔を上げると目の前には仁王立ちのカズ先輩。キャップのつばで出来た影から覗く目は、笑顔ではあるけどそれだけじゃない。直とテルには休んでていーよといつも通りの母っぷりだけど。
「L、買い出し行くぞ」
「買い出しすか?」
「アナ陣もうちょいかかるっぽいからお前も手伝え」
「あ、はい」
この現場近くにコンビニあるからと連れ出され、2人で歩く少しの道のり。少しの沈黙の後、カズ先輩が口を開く。
「最終的には自己管理になるっちゃなるんだけど、ミキサーはやっぱ全体を見る余裕じゃんな、L」
「そうっすね」
「カオルは帽子かぶってるし対策を知ってるから大丈夫だろうけど、他の子はモロ直射日光当たってっし、時間の問題っちゃ問題だから」
カズ先輩はアナウンサー陣の様子を見て、声や立ち振る舞いなどから状態を読みとっていたのだ。俺にはまだそんな余裕はない。自分がどう立ち回るかでいっぱいいっぱいだ。
普段からいろんな人とコミュニケーションを取っておくこと。そうすれば、信頼関係も築きやすいしもし何か異変があっても気付くことが出来る。そういう積み重ねで、いろいろ変わってくるそうだ。
「さ、買い物だ」
「差し入れって何買うんすか? みんな一緒っすか?」
「圭斗は伊右衛門、ちーちゃんはデカビタ。ビッキーはソルティライチ、カオルにはレッドブル。それとビッキー以外には塩分チャージタブレット」
「リク取ってきたんすか?」
「俺の偏見」
「レッドブルだけ値段アレっすね」
「……それは言わない約束だろ。その他の好みまではわかってねーんだ」
end.
++++
おそらく「去年」の焼き直しパターンのヤツ。去年はLのポジションにいち氏が、いち氏のポジションに城戸女史がいたものだと思われる。
レッドブルだけ値段アレwww うん、まあ確かに他の飲み物が2本は買えるからなあ……
そしてそろそろ本格的にお祭りの名前を考えないと面倒なことになってくるなあと思ってはいる。思ってはいるんだ……