「朝霞ー、助けてくれー」
「寄るな」
「頼むー、一生のお願いだ!」
「春学期だけで3回目だな」
班のブースに入ってきた朝霞クンがバタンと扉を閉めても、外ではカリカリと扉をひっかくように助けを求めて啜り泣く声が漏れてくる。いいの、と聞いてもほっとけの一点張り。
もちろんこの場合、ミーティングルーム自体の扉は開いていて、傍から見れば異端な光景ではあるよね〜。だけど、部活の場で朝霞クン―流刑地の主―に縋ろうとするとかある意味勇気ある行動だよね〜。
「シゲトラ、何て?」
「どの講義のノートよこせとか過去問よこせとかそんなことだろ」
「あっはは……例によって」
「山口、気にすんな」
実は、朝霞クンとシゲトラは同じ学部学科。だから取ってる講義も結構似通ってくる。同じ学部学科の友達がいると、困ったときには助け合えたりするし、いいことあるある〜。
朝霞クンは雄平さんの教えを守って1・2年生でガッツリ単位を取っていて、3年の春学期は課題や出席で評価が粗方決まる講義中心に取っている。ペーパーテストはなくって、テスト期間はほぼ自由時間。
一方のシゲトラは、夏のステージ直前でラストスパートをかけることになるテスト期間、1年の頃からご丁寧に部活に力を入れまくってステージはともかく単位が残念なことに。放送部員の何割かが陥る罠。
「だけどシゲトラも勇気あるよね〜、朝霞クンに縋ってる姿なんて日高に見られたら首取びかねないのに」
「時間的に問題ない」
「え?」
「日高は今、テストだからな。1年の必修がまだ取れてないらしい。4限まであるはずだからしばらくは来ないだろう」
「あっはは……」
何を隠そう、日高も2人と同じ人間学部。ただ、朝霞クンの話からしてこのテスト期間中の動きはお察し。部長不在となる時間が多いということで、俺たち朝霞班は割と自由にやらせてもらってるよね〜。
「山口、今のうちに機材予約するぞ」
「そ〜だね〜、つばちゃんももうすぐ来るだろうし〜」
「宇部はさすがにいるだろうからな」
「宇部Pも大変だよね〜、テスト期間中は事実上の部長だし」
「いや、文化会の部長会にも出てるから世間的に見て部長は宇部だ」
扉の外からは相変わらずカリカリとすがりつく音。朝霞クンがそれを無視して扉を開ければ悲鳴が上がる。と言うか、朝霞クンの目がいつにも増してマジなヤツだ。
「あっ、朝霞! 朝霞!」
「宇部! 4限の時間帯、ウチの班で機材使えるか!」
「無視すんなってー!」
「シゲトラ〜、諦めなよ〜」
「洋平、お前からも朝霞を説得してくれ!」
「……何よ、騒々しい」
「スマン。宇部、機材を使った練習がしたい。4限の時間帯に予約を入れられるか」
「ええ、構わないわよ」
宇部Pが言うことによれば、テスト期間には罠にかかった班員やテストの多い1・2年生が多ければ多いほどその班は自由に動くことが出来なくなるそうだ。だから、テスト期間は割と機材が空いてくる。
朝霞クンに縋りつくシゲトラの様子に宇部Pは大きく溜め息を吐く。3年がこのザマでどこの班が、部長があのザマでどこの部活が回るって言うのよ、と。
「朝霞班は文武両道で羨ましいわ」
「えへへ〜、俺はそれなりに頑張ったからね〜」
「俺は優秀ではない。落とさない程度に数を取っただけだから可の割合も高い」
「宇部P、ところで日高ってどのザマなの?」
「テスト期間中は夕方以降しか部活に姿を見せないでしょうね」
やりたい練習があるなら日中を狙いなさい、と宇部Pは機材貸し出し帳に朝霞班と記した。相変わらず朝霞クンに縋るシゲトラには、他の班の邪魔をすることは許されないわよと見下す目で。
「朝霞ー」
「鳴尾浜、練習中に声かけたらぶっ飛ばすぞ」
end.
++++
どこの団体にも1人はいるテストがやばい人たち。星ヶ丘はシゲトラが多分そうだろうと思いましたとさ。
授業の多い1・2年生はともかく、3年生にもなってくるとそれまでの行いなんかもモロに出てくるテスト期間。
星ヶ丘3年生の成績序列は宇部P>洋平ちゃん>朝霞P=うお姐>シゲトラ>日高になってそうな感。