「うわああん! ホント何なのあの人おおお!」
「あずさ、水でも飲んだら?」
「ハルちゃんお酒ー」
「それ以上飲むって言うならちー呼んで強制連行」
「じゃあちーも一緒に飲むぅ……」
――と、いうワケで兄さんの店に呼ばれたんだけど……あずさ、荒れてるなあ。割とよくあることらしいんだけど、一緒に飲むことはあんまりないから俺は知らなかったんだ。泣き上戸なんだね。
「ちー、アンタはフロートね」
「うん、ごめんね兄さん」
「謝らなくたっていいのよ。帰りはあずさを送ってもらわなきゃいけないし」
あずさは気分が良かったりむしゃくしゃしたりすると兄さんにそれを相談したり報告したりするのによく店に来るらしい。今日はちょっとイヤなことがあったみたい。
「あずさ、部活大変なの?」
「撮影自体は楽しいんだけど」
「例のエキストラさん?」
「ガン無視してるのにまだ絡まれるー」
どうやらあずさは映研で作ってる映画の撮影で大変な目に遭っているらしい。やたら上から目線のエキストラさんに台本をボロクソに言われたり、変に絡まれたり、ご飯に誘われたりするそうで。
それはどうなんだと、俺も含めたあずさの周りにいる人はその人をガン無視するように言ってるんだけどこの結果。どうやらその人は強靱なメンタルをしているらしい。
「あずさ、どういう男なの見た目」
「背はちーとハルちゃんの間くらいでー」
「じゃあ180ちょっとってトコかしら。顔は?」
「イタリア系で、結構整ってる」
「イケメンなのね」
「顔とスタイルだけはモデル級かな」
「性格が悪くなかったら付き合ってもよかったのにね」
「……ムリムリ!」
「そうよねー、あずさにはキラキラした彼がいるしねー」
「ちょっと、ハルちゃんやめてよそーゆーんじゃないからっ!」
キラキラした彼……と言うか俺サイドから見ると某鬼のP。朝霞も朝霞で恋愛という意味で付き合うにはちょっと難があるように見えるけど、言わない方がいいだろうな。
ステージに絡まなきゃむしろいいと思うんだ。でも、朝霞がステージに関わる限り、そしてあずさが映研で作品作りに携わる限り、あまり恋愛という意味でのお付き合いはおすすめ出来ない。
だけど、あずさが朝霞を本当に好きならそれは応援したいと思う。そもそも、あずさが朝霞を、みたいなことはまだまだ俺と兄さんの推測に過ぎないから。
「ち、ちーこそサークルだっけ? その先輩とはどーなのっ!?」
「え、みちゃこさんのこと?」
「あらちー、アンタも隅に置けないのね」
「違うよ兄さん、みちゃこさんは俺が甘えてるだけで、そもそも彼氏いるもん。姉さんみたいな存在だよ」
「彼氏いるのに他の男が近くにいてイヤな顔しないの?」
「相手の人も他校の先輩だし、俺のことは知ってるから。お前はいつ見ても大型犬みたいだなあって頭撫でられるよ」
「あっはっはっは! 大型犬! 確かにちーは犬っぽいわかわいー! そーれわしゃわしゃわしゃー、かわいいですねー」
「ちょっと、あずさやめてよっ!」
あずさにぎゅーっと抱きつかれたまま頭を撫でられてもうもみくちゃ。朝霞は酔ったあずさをどう対処して――っと、その前にあずさに対する大演説で酔うどころじゃなくするのか。
「うー……兄さん、これ、俺どうすれば……」
「まだ電車は生きてるし、援軍でも呼んだら? 最悪うちに泊めるかちーが送ればいいわけだから」
「そ、そうだね…! 助けて朝霞ー!」
end.
++++
なお、期待した相手は台本書くのに忙しくて援軍は呼べなかった模様。ドンマイちーちゃん。
というワケでちーちゃんの受難。どうやらふしみんもそこまでお酒には強くないらしい。しかし鬼のPの方が弱いらしいぞ!
大型犬ちーちゃん。確かにMMPの犬とも似てるところがあると某方に語られていたような気がしますね…!