星ヶ丘放送部の秋のイベントと言えば、大学祭のステージ。1年生も大体班が決まって、そろそろ大まかなパートを考えていく時期になってくる。
私は宇部班に入れてもらって、これからはアシスタントプロデューサー、略してAPとしてP見習いの立場になっていく。ゆくゆくは宇部さんみたいなプロデューサーになるんだ。
「あっ、マリンおはよー」
「部活でそう呼ぶなー!」
「え、マリンはマリンじゃない」
「とにかくダメったらダメー! あっち行け、シッシッ」
ああもう憎たらしいゲンゴローめ。あんな狭い朝霞班のブースでつばめ先輩と一緒だなんて。ただでさえ憎いのに挙句マリンとまで私を呼ぶか。
マリンというのはこの夏に参加した夏合宿で向島の野坂先輩と圭斗先輩に付けてもらった私のDJネーム。インターフェイスのイベントではその名前を名乗ることになるとかで。
別に、嫌な名前じゃない。かわいいと思う。だけど、この部活でインターフェイスとの距離が近すぎるという印象を持たれたらちょっと怖いし。
「キーッ」
「あら浦和さん、どうしたの」
「あっ、宇部さんおはようございますです!」
宇部さんは部活の監査という役職を持っている。部長がクソで無能だから、宇部さんが実質部の舵取りをしている。それでもってPとしての能力も高いとかすごいよね。
厳しいときはすごく厳しいけど、優しい人。それでいて、己の正義を貫くっていう姿勢は凛としてて、私の憧れ。
「ご機嫌斜めみたいだけど」
「ゲンゴローがヒドイんです! インターフェイスの場でもないのにマリンって呼ぶし」
「ああ、合宿に参加してたのよね。楽しかった?」
「楽しかった、です。つばめ先輩は素敵だったし」
「インターフェイスの活動はラジオが基本だからステージには関係ないって思うかもしれないけど、幅広いステージをやるにはラジオ的アプローチも必要になってくるわ。いろいろな世界を見ておいて損はないし、これからも出られる活動には出るといいわよ」
「宇部さんがそう言うなら。つばめ先輩と話すきっかけにもなるですし」
宇部さんは監査なのに、インターフェイスの活動に対してあまり悪い顔をしないんだなあと、今になって気付く。出てみるといい、なんて監査の言うことじゃないよね本来。
部活の上の方の人はインターフェイスの活動に部員が割かれるのをあまりよく思ってなくて、その活動に積極的な人は部で冷遇されるって話も聞いたことがあったから。
「戸田さんから対策委員の報告を受けたのよ」
「私のことは何か言ってましたか!?」
「ええ。他校の人とケンカにならないか心配だったけど、かわいい名前も付けてもらってみんなと仲良くしてたみたいだし、楽しそうで良かった。そう言ってたわ」
「そ、それほどでもです!」
「ところで、どうしてその名前で呼ばれることが嫌なの? 似合うのに」
「それは、その……」
「部活での立場のことなら気にしなくていいわ。誰かに何か言われたら、私から出るように言われたと言いなさい」
「えっ」
それじゃあ、企画を立てましょう。そう言って宇部さんはこの話を切り上げた。これから始まるのは大学祭ステージの話し合い。ステージと向き合うのは久し振りな感じがする。
そうなると、気になってくるのは宇部さんのこれまでのこと。インターフェイスの何を見て今の考えに至ってるのかなって。思えば、謎だらけなんだよね。
「浦和さん、集中しなさい」
「はっ、はいっ! ゴメンナサイです!」
end.
++++
プロデューサー見習い・マリンの奮闘記。だけど、マリンはちょいちょい宇部Pのことが気になって来た様子。
ゲンゴローに「シッシッ」ってやったり「キーッ」ってやってるマリンがかわいい。ゲンゴローはコミュ力の塊だからね、仕方ないね
しかし、ムライズムとラブ&ピースのMMPにしては割とまともなDJネームを付けてあげたものだ。