「――というワケで、今日は星ヶ丘の作品出展だね。ん、りっちゃん、頼むよ」
「へーい」
インターフェイスでは、毎月各校が持ち回りで作品を出してモニターし合う作品出展という活動がある。今月は星ヶ丘の作品が手元にやって来た。
これは、作品をみんなで聞き合ってこれはこういうところが良かったとかここはこうしたらもう少し良くなるなどと言い合って技術向上と交流に繋げてもらおうという趣旨。
流れて来るのは星ヶ丘の、と言うか朝霞班のラジオドラマ。MMPでもたま〜に作品とも呼べないラジオドラマを作るから、作られた背景なんかも少しだけ思うところがある。
「と言うか、山口先輩はこれ、何気に1人3役をこなしてますか?」
「山口先輩の見事な声優っぷり、青女ではサドニナがどういう反応をしているのか楽しみですね」
「やァー、こーたが毒草生やしてやすわァー」
「ほらノサカ、つばめもミキサーなのに演者じゃないか。そんなに珍しいことじゃないだろ」
「MMPと星ヶ丘を比べるのは事情が違い過ぎます」
あれよあれよと気付けば30分。実に引き込まれる作品だったね。やんややんやとコメントを入れながら聞いていた愉快な面々も、再生が終わればふう、と一息。
「それじゃあ、感想をまとめようか。菜月さん、書記を頼むよ。それじゃあ、何かある人」
「はい」
――と、このテのモニターではやたら気合の入っている男が1人。毎度おなじみのパターンで、三井からありがたい講評がいただけるのだ。
「これ、台本。自分たちの力量を分かってないよね。身の程知らずと言うか見栄っ張りなのか。まあ、ロイは負けん気が強いからね」
「……菜月さん、必要なところだけまとめてくれればいいよ」
「わかってる。外交問題にはしたくないからな」
ひそひそと必要事項を書記の彼女に伝えると、モニター用紙の横にそっと別の紙を用意して三井のありがたい講評を書き並べていく。それを上手くまとめるのが彼女の仕事。
ただ、三井の演説が熱くなるのに比例して、隣からはバキッとかボキッとか、シャーペンの芯が折れる音と舌打ちが織りなすイライラのハーモニーが強くなる。
「そもそも、説明的過ぎるんだよね。ちょっとの情報でいいのに全部喋らせてるでしょ? それでもうこっちがついてこれなくなるじゃない、無駄が多いよねー。僕ならあの場面のセリフは半分くらいに削って――」
「三井、まだ長くなるか?」
「ちょっと待ってよ菜月〜」
「うちは別に星ヶ丘の台本を上げ下げするつもりはないけど、MMPでラジドラやるぞってときに「え〜、僕書けないから任せるよ〜」とか言って脚本書く作業を投げる奴がここまでデカい口を叩くことにムカついてるだけだから語り足りないなら続けて、どうぞ」
なるほど。確かに、MMPのラジドラは菜月さんとりっちゃんの脚本が主だ。それでもって菜月さんは1年生のときからラジオドラマの脚本を書き続けているから、このテの苦労はわかるのかもしれない。
「ちなみに、映画スターの三井サンはラジオドラマにブランクがあってピンと来ないかもしれないけど、ラジオドラマは声と音だけで聞き手に想像させなきゃいけないぞ。視覚に頼れない分、ある程度説明的になるのはご理解いただけないと……プロじゃあるまいし、それらしい作品なんて書・け・ま・せ・ん・ね!」
尋常ではない菜月さんの覇気に、明らかに三井は怯んでいた。哀れ、三井。もし次があれば、次のラジドラで理不尽な殺され方をされないように願うことだね。
「やァー、三井先輩、ここは黙って謝っといた方が得策スよ」
「間違いありません。どんな毒草も枯らされるのがオチですね」
「菜月先輩が本気になったらどんなラブ&ピースな脚本が上がって来るんだ…!」
「……次のラジドラは僕も書けるように努力してみます」
「ん、それじゃあ、他にある人」
相変わらず菜月さんはゴゴゴゴと物騒なオーラを放っている。それでいて、モニター用紙に書くべき感想をまとめてくれている。その中には、この場で発せられることのない彼女自身の感想も。
「ああそうだ三井、お前が削りたいって言ってたのはセリフじゃなくてモノローグだ。今日の3限でやったけど、そういやお前いなかったな。さすがムービースター」
「三井先輩、書けるように努力するんジャなくて、書いて持って来いって言われてヤすぜ。あ、自分も三井先輩の映画界仕込みの台本楽しみにしてヤすわァー、ハハァー」
モニター用紙は抹殺の意ではなくラブ&ピースかつ建設的な意見でカバーされていたよ。だけど、その日のMMPが菜月さんとりっちゃんのラブ&ピースに震えていたのは言うまでもない。
end.
++++
果たして菜月さんは必要なところだけをまとめたのか! MMPの作品モニター回。
MMPのラジオドラマは基本的に菜月さんとりっちゃんが書くのだけど、それを圭斗さんなり神崎、前年度までならムラマリさんたちが一緒にチェックを入れて毒の成分を弱めてました。
菜月さんと三井サンは学部学科的に身体表現とか作品制作のある授業なんかもちょいちょいあって、いくつかは同じ講義を受けている模様。