「よし、じゃあ食うか。いただきます!」
「いただきます」
学食バイトのまかないは、学食のメニュー。営業時間が終わった後、学生バイトはそのまままかないを食べてから帰ることが出来る。もちろん食べないことも出来るけど、ほとんどの場合は食べて帰る。
緑大の学食はいくつもあるけど、学生が入るのは主に第1食堂だ。第2学食と比べると味はちょっと落ちるけど、値段は安いし量は多い。不味いってワケじゃないから別に何の問題もない。
「康平くんは本当によく食べますね。見ていて気持ちがいいです」
「食わないともたないじゃん?」
「僕ももっと食べていればもう少し大きくなれたでしょうか」
「そうかもしれないけど、デカくなったら女物の服なんかは着れなくなるし、それはそれ、これはこれじゃん?」
「そうですね」
今日一緒に飯を食っているのは学食バイトの同期で同じ学部学科の浦和実苑。授業も同じのがいくつかあるし、割と仲はいい。典型的体育会系の俺と典型的文化系のコイツだけに、異色とは言われる。
俺は焼き肉定食を、実苑は焼き魚定食を前に、喋りながらも淡々と箸を進める。同じ定食だけど、白飯と味噌汁のサイズが違う。俺はどっちもLサイズだし、実苑は飯がSで味噌汁がMサイズだ。
「実苑お前、魚食うの上手いよな」
「箸の使い方は子供の頃からきちんと教えられてきました。でも、僕の友達の方が上手に魚を食べますよ」
「え、お前より綺麗な食い方とかあんのか」
「彼は秋刀魚が好きらしく、秋になって学食で秋刀魚が食べられるようにならないかと楽しみにしていました」
「ああ、いいじゃん? そろそろシーズンだし」
半期バイトをしてきて、時期によっていろんなフェアが行われたりすることがわかった。ご当地メシが出たり、その他にも旬の食材を使ったメニューが出たり。秋刀魚はあるかもしれないな。
「ああ、その彼なんですけど、佐藤ゼミに入りたいと言っていましたから、もしかすると康平くんとも知り合うかもしれませんね」
「マジか。でも倍率高いじゃん? つかゼミどーすっかなー。実苑、お前どーする?」
「僕は羽椛先生だと最初から決まっています」
「そうだよなあ」
社会学部の1年生はこの時期、来年から自分がどのゼミに入ってどういう勉強をするのかを考えていく。ゼミの説明会なんかも行われているし、来年のことだけど時間は案外ない。
俺が入りたいのはメディア文化学科の佐藤ゼミ。ただ、俺は現代社会学科だ。ルール的に、違う学科のゼミに入ることは問題ないとは言え、冒険っちゃ冒険だ。気持ちはほぼ決まってるけど、いざとなると。
「学科が違うからと言って後込みするというのも康平くんらしくありませんね」
「そうか」
「いえ、僕が偉そうに言えたことではないのですが。僕の周りには佐藤ゼミに入りたいという人が何人かいますし、学科の壁を越えてまで入りたいと思わせる、よほど魅力的なゼミなんでしょうね」
「面白そうっつーか、アクティブなのがいいと思ったんだよな」
「康平くんらしいですね。ところで康平くん、ごはんを半分食べてもらっていいですか? Sサイズでも少し多かったみたいです」
第2学食のMサイズ相当になるSサイズの飯。俺の茶碗に白飯が流し込まれ、それをカスほどになった肉の欠片と一緒に口に運ぶ。うん、やっぱここの肉味濃いめじゃん?
「よし、ごっそーさん」
「ごちそうさまでした」
「それじゃあ、洗い物すっかー」
「そうですね」
end.
++++
緑大学食バイトのまかないの光景。美術部でデビューしたミソノは学食でバイトをしているようです。
後に鵠さんは秋刀魚が好きなミソノの友達としっかり知り合って友達になるのだけど、うん、まあ、アレよ \TKGー/
ゼミが決まる決まらないというのはこの時期の話で、来月アタマにはゼミ希望届を出さないといけないとかそんなスケジュール。