「たのもーっす!」
「たのもー! 高崎せんぱーい!」
「あ? 何だお前ら騒々しい」
「晩ご飯時にすみません」
「試食してください!」
急に人の部屋にドカドカと押しかけてきやがるチビどもを制しようとすると、何やら美味そうなソースの匂い。そもそも1年のチビどもがどうしてムギツーにいるのかという話だ。
うちに連中を入れるワケにもいかない。コイツらが拠点にしているであろうLの部屋へ。案の定、部屋中にソースの匂いが立ち込め、手に持っていたままのビールがこれだけで進みそうだ。
「で、何だってんだ」
「学祭で出す焼きそばを試作してたんす。でも、俺ら味見しすぎて腹いっぱいだし味もわかんなくなってきたっていう」
「ここは公正な判断の出来そうな高崎先輩に味見を頼もうと」
「なるほどな」
「で、ここに誰が作ったのか伏せてお皿を用意したんで、食べてくださーい、しょぼーん」
MBCCで出す食品ブースは毎年伝統的に焼きそばだ。これなら誰にでも作れるだろうし、安定した売り上げがあるだろうと目論んで。とは言え、やるからにはより美味い物を出さなければ意味はない。
目の前に出された焼きそばは3皿。食品ブースは基本1年の担当だから、家主のLは手出しをしていないそうだ。高木、エージ、ハナがそれぞれ作った焼きそばの試食が始まる。
「じゃ、いただきます」
とりあえず、左から順に食っていく。一言で焼きそばと言ってもそれぞれにクセがあると言うか、どういう焼きそばをイメージしたのかが何となくわかって面白い。
「麺は左、味は真ん中、具のバランスは右。以上」
「三者三様かー」
「とりあえず、酒は進む」
「今は酒抜きで考えてください高崎先輩。学祭の酒類販売は禁止になってるんで」
「どこぞのヒゲゼミがやらかしてくれたおかげでな」
それはともかく、気になるのはどれが誰の作った物かだ。まあ、味の一番美味いこれは紅ショウガ乗ってねえし高木じゃねえかなっていうレベルの推測は出来るけど。
とは言え想像ばっかしててもしょうがねえ。どれが誰のかをしっかり聞いていく。すると、麺が良かった左のは自分だと名乗り出るのはエージ。
「エージか。お前のは麺の感じが良かった。固すぎず、柔らかすぎずっつー感じで。味がちょい薄めだったかもしんねえな。真ん中のは」
「俺です」
「やっぱ高木か」
「あれっ、わかりましたか」
「紅ショウガ乗ってないし、何となく野菜少ねえからな。お前のは、何だ。ソースの味がケチってねえ感じで、濃さがいいな」
「ソースは焼きそばの根幹に関わるので」
「っつってもコストかかるっていう」
「誰が言ってもそこは絶対に譲れません」
しかし高木のこだわりは何だってんだ。普段はここまでグイグイ来るようなヤツじゃねえのに。いや、溶かすだけのインスタントコーヒーが不味くてドリップにしたとかいう男だ。そう考えるとなくはねえ。
「っつーことは、残るこれがハナか」
「焼きそばは具があってこそですよ、しょぼーん」
「確かに。もやしがなかなかいいアクセントになってっし、肉だなやっぱ」
「そうでしょう!」
「でも、三者三様のいいとこどりをするとなると、野菜の水分や炒め時間も考えねえと麺と味に影響が出そうだな。あと、天気や災害の都合でコスト変動もある。また研究して、いいモンが出来たら呼びに来い」
はーいと3人分の返事が響き、とりあえず俺はお役御免。あとはチビどもがレシピを開発して、それをサークルメンバーに共有するまでだ。
毎年同じことをやってたところで意味はねえ。伝統の味が受け継がれるのはいいことだが、どうせならそれを越えてやりてえじゃねえか。なんて、久々にデカいことを思っちまうのは、何なんだろうな。
end.
++++
MBCCクッキングの時間でした。食べるだけの高崎だけど、とりあえずお前は酒を置いて来い、話はそれからだ。
そしてソースにこだわるタカちゃんである。誰が言おうと絶対に譲れないポイントらしい。タカちゃん的にソースと言えばオ○フク。
……つかエイジ、タカちゃんの部屋でも焼きそばくらいは作ってるだろうけど、お前そんだけこだわるなら自分で作れよって思わないのかしらw