「今年の12日ってー、世間的には祝日ですよねー」
「体育の日だね」
「なのに大学は休みじゃなくて授業あるっておかしくないですかー、ですよねー」
10月12日は果林の誕生日だということで、その前日、10月10日の夜から11日にかけてMBCCでは恒例の無制限飲みが開かれていた。今回の会場は俺の部屋。何故なら、会場になりそうな部屋の中で調理設備が一番いいからだ。
机の上だけに留まらず、床の上にも適当に作ったおつまみの皿が広がる。ただの無制限でもそうだけど、果林の誕生日という但し書きが付くならフードメニューの充実は欠かせない。
「まあ、それで飲みが12日に掠らない日程になってるしね」
「12日に掠らないとか何なんですかねーいひゃいいひゃいいひゃいいひゃい!」
「つべこべ言うな」
「いひゃいいひゃい!」
手を離すとバチンッと音がしそうなくらい強く引っ張られたほっぺたをさすり、果林はわかりましたよわかりましたーと半ばヤケになってビールを煽る。ハタチおめでとう。厳密にはまだだけど。
「もー、高ピー先輩毎回毎回痛い!」
「お前がウルサいのが悪い」
「あ、高ピーに果林、欲しい食べ物あったら言ってね、作るから」
「じゃあベーコン頼む」
「了解。タカシ、食べてる?」
「あ、はい。食べてます」
ベーコンは油を敷かずに焼いていく。うっすらと焼き色がついたくらいじゃまだガマン。ベーコン自身の油で周りが揚がって、一歩間違えたら焦げそうなくらいカリカリに焼くのが高ピーの好み。
少し残した端の方は、おいおい作るパスタの具にしていく。何を隠そう、MBCCの飲み会に絶対欠かせないのがこのベーコンだったりする。メインにして良し、具にして良しだ。
「はい、ベーコンお待たせー」
「サンキュ。伊東、お前も飲め」
「俺はもうちょっとしたら飲むよ。まだ料理したいし」
「そうか」
料理をすることは、無制限飲みで俺が生き残る術だ。酒豪ゾーンとまで呼ばれるMBCCで唯一の下戸である俺がみんなと同じように飲み会を楽しむにはこれがいいと気付いてからは早かった。
元々料理は好きだし、と言うか厳密に言うと誰かに食べてもらうのは好きだし、特に今日は果林の誕生会という体だからいつもよりも気合いの入り方が違う。酒も好きだけど、酒は料理が一段落してから。
「いっちー先輩の部屋って、どれだけ調理器具とかが充実してるんですかね」
「その辺は謎だ。良さそうだと思ったら片っ端から買ってんじゃねえのか」
「レンジとか学生の一人暮らしのスペックじゃないですよね」
「料理するようになって結構なオーブンレンジに買い換えたらしいぞ。普段はそうでもねえけど使うところは使うからな伊東は」
「同時進行でいろいろ作れる技能もありますからねー」
「それな。下手すりゃ10万行ってるだろ」
冷蔵庫の中には昼のうちに作っておいたケーキも控えている。パスタを茹でるのもこれからだし、無制限飲みはまだまだ続く。何より、俺と高ピーが寝落ちてからが本番の子に夜食も用意しなくちゃね。どんなに作っておいたって、朝になったらキレイになってるんだから。
「緑大に祝日なんてなかった! ですよねー!」
「社学だと月曜全休もそうそうねえもんな」
「月曜日は1限から英語があるので12日に掠るように飲んでたらキツかったです。そろそろ欠席数も蓄積されつつあるので」
「……高木、お前、せめて必修は出とけ。な?」
「うん、タカちゃんが単位取れるならお姉さんの誕生日くらいだいじょぶだいじょぶ」
end.
++++
いち氏の割といい話だったような気がするけどTKGが全部持ってった果林の誕生会の体の話。
いち氏宅のオーブンレンジは結構ないいヤツで、ウン万、下手すりゃ10万行ってんじゃないかくらいのヤツ。出す時は出すからな!
祝日で、しかもせっかく体育の日なのに休みじゃないので文句ばっか言ってる。はっ もしかして果林土曜バイトお休み取ったんだなこれ