「ヤバいな、カオルガチなヤツじゃんか」
「半ば予想は出来ていたけど、やっぱり想像と実際の覇気は違うね」
10月次定例会。今日は向島インターフェイス放送委員会の次期役職に関する話し合いや、次の1年生をそろそろ選んでくださいという大事な話が本題だった。
それとは別に大学ごとの活動報告(――とは言ってもこの時期の活動報告なんて「大学祭に向けて準備してます。来れる人は遊びに来てください」で終わりだ)と、作品出展についてさらりと触れる程度。
ただ、この作品出展がどうやら鬼のプロデューサーの導火線に火を付けてしまったようだ。厳密には、作品出展で集まってきた中にあった1枚のモニター用紙が。
「これは『くっ……左手の古傷が疼く…! 俺の別人格が暴走する前にみんな離れろ…!』というヤツだね」
「厨二拗らせてる場合か圭斗!」
「朝霞が怖すぎて迂闊に近寄れないなあ。カズ、何とかしてよ」
「俺だって死にたくねーよ! 圭斗、責任取って何とかしろ、原因は向島だろ」
そう、何を隠そうウチから出したモニター用紙を読み進めていくにつれて朝霞君の眉間に皺が寄り、青筋が立っていったのは明白。うん、やはりバカ正直にアイツの言う通りにするんじゃなかったね。
「圭斗、ちなみに何て書いてあったんだ」
「掻い摘んで言うと、台本が身の程知らずとか見栄っ張りとかそんなような三井のありがたい上からの感想を一言一句そのままに」
「そりゃカオルじゃなくてもキレるに決まってんだろ圭斗お前何考えてんだ!」
「最初は必要なところだけ書いてもらうように菜月さんに頼んでたんだけど、ほとんど要らないと判断したことが三井にバレてしまって一言一句書き写すハメになったんだ。大変だったんだよ、菜月さんが口だけの三井にキレるし」
「……心中お察しします」
相変わらず星ヶ丘の席からは今にも床が剥がれて浮き上がってきそうな物々しいオーラ。ただでさえ朝霞君は前科者だけに、またその辺の壁を殴って怪我をされでもしたらとんでもない。
「そう言えば……あった」
「圭斗何すんだ」
「朝霞君、ここにめがけて拳を打ち込むんだ」
悪いと一言発せられ、右手に受ける衝撃は。クッション代わりにしていたマフラー越しにも鋭く、重い。
一目惚れしてさっき買ったばかりのマフラーだ。使うのはもう少し先になるかなと思ったら、思いがけず早かった。本来の用途とは大きく異なるけど。
「朝霞君、少し落ち着いたかい?」
「ああ、悪い圭斗。あと、後半の感想はとてもタメになった」
「前半に関しては、悪いことをしたね」
「とりあえず、俺は今の感情を部活に持ち帰らない。戸田も絶対にキレるから、俺が踏ん張らないと」
「ああ、確かにつばちゃんは、うん。とりあえず、謝罪文を。班の皆にも読み聞かせてあげてください」
「ん? わかった」
モニター用紙と謝罪文をしまい込み、一応はすっきりした表情になった朝霞君は、これを星ヶ丘に戻ってどう処理するのだろうか。一方の僕はと言うと、右手がまだ痺れている。
「今ので僕の手が折れてしまったかもしれないな」
「これくらいじゃ折れないだろ。俺、非力だし」
「朝霞君が自分で思ってるより鋭く重い一撃だったよ。どうだい伊東、試しに受けてみろ」
「ヤだよぜってー痛いじゃんか! ちーちゃん!」
「えー!? 俺だってイヤだよ怖いもん!」
「お前ら、俺を何だと思ってんだ」
end.
++++
インターフェイスでのイライラを部活に持ち帰ることはしない朝霞Pであった。
今日はツッコミオブツッコミと称されたこともある圭斗さんがちょっとボケのターンに入っていた模様。
そして例によってちーちゃんはへっぽこだし朝霞Pは怖い物。定例会3年生はそういうものである。