「はいどうぞ、クッキーセットです」
「ありがとう」
青葉女学園大学は基本的に男子禁制。去年までは手続きをすれば男子も課外活動などで敷地に立ち入ることが出来たけど、今年からは全面的に禁止になった。だけど、大学祭だけは話が変わる。
ヒロが啓子さんにしつこくアプローチし続けた結果、俺とこーたも巻き込まれて大祭期間中の土日は青女さんの手伝いをすることになった。
それで菜月先輩には昼放送の収録日程も変更していただいたり、身内は手伝わないのに青女は手伝うのかと冷たい視線をいただいてしまった。心に刺さるぜ。
青女さんの手伝いというのはステージの大道具運搬とかそんなようなこと。俺とこーたは機材運搬とその後の組み立ても手伝う。
ステージが終われば喫茶が始まる。メイド&執事喫茶ということらしいんだけど……女子大の喫茶だけあって値段がちょっとぼったくげーっほんげほん!
こえーよな、呪文やおまじないのオプションに300円とか。いや、直クンには払えるな。イケメンは尊い。圭斗先輩が呪文をかけてくれるなら1000円どころかもっと出せるぜ!
「これか、沙都子のクッキーセットってのは。昨日はケーキセットだったけど」
「沙都子のクッキーはカフェのクッキーと比べても遜色ないよ。満足してもらえると思う」
「直クンがそう言うならそうなんだろうな」
「さとちゃんは料理上手ですし、お菓子も作れるんですね」
「あー、青女ええなー、さとちゃんおったらいつも手作りお菓子食べれるやん」
俺たちにも手伝いの報酬として1日1回ご馳走してもらえることになっている。今日はクッキーセット。コンビニスイーツにあるような大きくて食べ応えのありそうなクッキーと飲み物のセットだ。
青女の喫茶で出て来るお菓子は基本的に沙都子が手作りしているそうだ。元々料理やお菓子作りが得意で今は家政科系の学科。マズいワケがない。
1・3年生がメイドで2年生は執事という役割だけど、沙都子は執事なんて柄じゃないしお菓子作りに専念しなきゃと表には出て来ない。皿洗いなんかも担当している。
「はいこーた先輩お茶! さとばあやがよろしく言ってましたよ」
「おや。サドニナは奇抜な衣装ですね」
「さとばあやがイジメたんですよー!」
「それはそうと、“さとばあや”はそうとしか思えなくなるのでやめてあげた方がいいと思いますよ」
「それもそうだな、さとおばさんのクッキーとかシチュー止まりだったのにばあやって言われると納得してしまう」
「さとばあや、違和感ないやん! イケるよ!」
俺たち3人がさとばあやの語感の良さにウケていると、サドニナが衣装からアホっぽく飛び出た星を揺らして去っていく。次の仕事か。まあ、こういうの好きそうだもんなサドニナは。
「だーれーが、ばーあーやですってぇー!?」
「ひっ! 沙都子いたのか!」
そして、振り向けば沙都子。手にしている皿にはクッキーが3枚乗っている。だけどこれはめちゃ怒ってるな。サドニナはこれを察知して逃げたのか。
「ヒドイ! せっかく手伝ってもらったからクッキーおまけしようと思ったのにー! 向島の子たちなんてもう知らないんだからあああ」
「ばあやって最初に言ったんサドニナやん! ボク知らんよ!」
「私はサドニナにやめなさいと言いましたし。まあ、野坂さんはさとおばさんって言ってましたけど」
「ちょっ、こーたお前身内を売るな!」
結局、おまけしてもらえるはずだったクッキーは全部沙都子がヤケ食いしてしまった。その上、沙都子が俺たちに怒るとそれが青女勢全員に伝染するのだ。女子の集中砲火こわい。助けて直クン、呪文代ならこーたが出す!
「あー、マーシー、沙都子最近おかーさんとかおばさんって言われるの気にしてるから――って、遅かったみたいだね」
「直クン、もうちょっと早く言ってほしかった!」
end.
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さとおばさんのクッキーと言わせたいがための青女学祭回でした。去年のこの次期さとちゃんいたかいないか微妙だったしね。いなかったかしら
おまじないに対して払える値段は誰がやるかによって変えられるのがノサカである。圭斗さんにはどこまで貢げるのだろうか……
さとかーさんがクッキーヤケ食いしてるのはきっとかわいいとおもう