「朝霞サンとだいま。はい、レッドブルとウィダー」
「ああ、悪い」
「まーだ台本見直してんのー?」
「心配するな。派手に直すことはしない」
頼まれていた買い物を手渡すと、朝霞サンはさっそくゼリーのフタを開けてそれを吸う。それが片手で手軽に取れる栄養のつもりなのかもしれない。ステージ前は普段より線が細くなるのはその所為だと思う。
「自称ステージスターにも困ったモンだよね。台本あるのにアドリブ入れまくるし、動きがデカすぎてD泣かせだっつーの」
「お前にアイツを捌く能力がなきゃアイツもあそこまで動き回らないだろ」
「はー、アタシがデキるディレクターだってのが原因ってか」
「まあ、そうなる」
ん?
と言うかいつもなら朝霞サン、アタシが自分でデキるDとかそういうことを言ったら「その程度で満足するな」とか「じゃあもっと台本厳しくするか」とかそんなコトを言うのに、なかったよね?
うわっ気持ちわるっ! 本当はアタシをデキるDだと思ってくれていたとしても気持ち悪いし、いつもの文句を返すだけの元気がないんだとしたら一大事。どっちにしても朝霞サンは普通じゃない。
「戸田」
「ん?」
「山口のあの動きの意味はわかるか?」
「ステージの進行上、動く必要があるとかじゃなくて? 単にリアクションデカいだけだと思ってたけど」
ひと呼吸おいて、朝霞サンはステージスターとは何ぞやと語り始めた。
朝霞サンにとってのステージスターとは、同じ壇上にいる誰かを主役にすることの出来るMC。出張り過ぎてはいけないし、時には足りない言葉を補ったり。場の均衡を保つ神であり。ステージはMCを中心に回ることには間違いない。
「だけど、MCは眩しすぎてもいけないと思っている。アイツは最初に世話になったのが水鈴さんで、アイツ自身ステージで誰よりも輝く水鈴さんを追ってきた。だからMCは華やかでなければならないと思った結果辿り着いたのが今のスタイルだ」
「眩し過ぎちゃいけないってのは?」
「ステージはあくまで企画に参加してくれる人や、壇上で演目を披露してくれる人がメインだ。MCが眩しすぎると他を殺す。そういった面で、俺はアイツの影の部分こそステージスターたらしめる面だと思っている。アイツは楽観的に見えて悲観的だし、チャラく見えてクソ真面目。天性ではなく努力の男だ。俺はアイツに華じゃなくていぶし銀を求めてる。アイツの意味不明に見えるデカい動きは、壇上の他者を引き立たせて自分が一歩引く絶妙なポジション取りの結果だ。お前は壇上でケーブルを捌いてるから見えないかもしれないけどな」
そう考えると、アタシは壇上でケーブルを捌くからこそ見える物を何か知っているだろうか。客席をチラリと見ることはあっても、MCの背中を真後ろから見ることは、思えばなかったと思う。
でもやっぱり、気持ち悪い。朝霞サンが洋平を褒めてる。そんなの、この2年で1回も見たことがない。熱があるのかと思ってデコに触ってみたけど至って平熱。
「戸田、俺はステージに向けて体調は万全だ」
「そう、それならいいけど。って言うか、そこまで洋平のコト認めてんなら本人に言わないの?」
「言ってどうなる」
「でもって朝霞サン、アタシは褒められて伸びるタイプだよ」
「嘘吐け、反骨心の塊が」
end.
++++
朝霞Pのステージスター観。朝霞Pと洋平ちゃんは多分互いをめちゃくちゃ理解してるからこそああなんだと思う。
仮に信頼とかそんなものがあるとしても台本を介してしか伝えられない、伝えようとしないのが朝霞Pではないかと。
とりあえず、ステージ前の食生活がアレなのはデフォ。レッドブルとウィダーで過ごしてるとか後で絶対バターンってやるヤツじゃねえか……