「トリックオアトリート〜」
ドレスコードは仮装、各自お菓子を持ってくること。10月最後のゼミは、そんなルールが制定されたハロウィンパーティー。ちなみに、安部ゼミでパーティーは割とよくあることだ。
安部ちゃんがみんなでわいわいやるのが好きなタイプなのがその理由だ。学生を付き合わせるため、パーティー参加者には出席1回分ボーナスとかもザラ。もちろん俺はそれ目当てに参加している。
「おっ、さすが高崎君。ボーナスのあるイベントには遅刻しないで来るねえ。そういう露骨さ、嫌いじゃないよ」
「どーもっす」
「飯野君は大学祭の準備大丈夫なの? 倉橋君は休みみたいだけど」
「倉橋はクリパの方で今日を埋め合わせるっつってたし、俺はゼミ出ないと卒業危ないっつって来たんで大丈夫でーす、いえーい、パーティー最高ー」
「うん、飯野君が卒業ピンチなのはゼミが原因じゃないでしょ」
ハロウィンパーティーとは名ばかりで、実際は規模を大きくしたお茶会だ。何のイタズラが仕掛けられているでもなく。そしてお茶を淹れるのは個別に呼び出され慣れている俺に指名が入る。
「高崎君は何の仮装なのそれ」
「一応フランケンシュタイン的なイメージっした。顔に傷のタトゥーシール貼っときゃそれっぽくなるかと思って。自前の傷じゃさすがに足んねえし」
「コスチュームと髪型次第ではブラックジャックにもなり得るね」
「あー、それもいいすね」
安部ちゃんがこの日に開けるんだと張り切っていたらしいちょっと高めのお茶を淹れ、ひとりひとりに配っていく。そして各自持ち寄った菓子類が机の上を回っている。
その菓子はピンキリ。ごく普通のスナック菓子の奴もいれば、手作りして来た奴もいる。そして俺はと言えば、安部ちゃんに言わせれば露骨なのだろう。
「高崎君、これは?」
「大松饅頭堂のかりんとうまんじゅうっす。期間限定の紫いも」
「高崎君、これ食べたかったんだよねー、ありがとう〜!」
「賄賂だ賄賂ー! 高崎が出席集ってるぞー!」
「うっせえ飯野黙れ」
倉橋がいたら絶対妙な絡まれ方してただろうし、このパーティーが学祭前で本当によかった。俺が純粋に食いたかっただけなのにこうまで言われちゃな。ま、普段の行いか。
手元には、小高い菓子の山と湯気を上げるお茶。果たしてこれはパーティーなのか? ティーパーティーとは呼べるかもしれないが、ハロウィンパーティーと呼べるかは疑問だ。
「うん、飯野君お茶美味しいよ」
「どーもっす」
「え、つか安部ちゃんお茶淹れたの俺なんすけど」
「このお茶、帰省のお土産で飯野君からもらったんだよ。やっぱり山羽のお茶は美味しいね。高崎君が上手に淹れてくれるのもあるけど」
「飯野、人のこと散々賄賂だの何だの言っといててめェもレポートの評価集ってんだろうが」
「安部ちゃんくらいの年代の人に対するお土産なんかお茶しか思い浮かばねーだろーが! お前のまんじゅうと一緒にするな!」
「俺だって俺が食いたかっただけだ。てめェと一緒にすんな」
「まったく。どんぐりの背比べだね」
各々の思惑はともかくお茶会は進む。次のパーティーはおそらくクリスマス。本来は公的な用事に使われるべき出席ボーナスの邪な利用法や、レポートの文字数なんかの問題も深刻になる冬の話。
end.
++++
ハロウィンと言えばパーティー、パーティーと言えば安部ゼミ。未結嬢から見れば賄賂合戦。
冷静に考えれば飯野も大祭の前夜祭に向けて忙しいはずなんだけど、ゼミに出なきゃ卒業が危ないという説得力が勝ったのか…?
と言うか高崎、顔を弄るより小道具つける方が後々のことを考えるとハードルが低いと思うのだが……