電気の消された部屋で煌々と光るテレビ。手元には簡単なお菓子と飲み物。映画館のように、と言うには少々グレードは落ちるけれど、秋の夜長の文化的な活動としては悪くない。
「じゃ、再生するな」
家主の朝霞君がプレイヤーに円盤を飲ませ、再生ボタンを押す。これは星ヶ丘の映画研究会が作った作品だそうだ。どうして僕がそれを見ることになったのかって? 事の発端は三井のやらかし。
三井がプライベートで参加していた映画のエキストラ出演、それが星ヶ丘の映研の物だった。そこで出会った脚本家の女の子に惚れたのか、しつこくしていたらしい。
人間関係というのはどこかで誰かと繋がってくるのかもしれない。その女の子と朝霞君は友達だった。大学祭当日も例によって三井は星ヶ丘でやらかして、その子と朝霞君に迷惑がかかった。
そのことについて僕が一応定例会で今一度謝ると、それなら映研の作品を見てやってくれないかと言われて現在に至っている。どうやらその子は感想を欲しがっているらしい。体のいいモニター会だね。
「短編映画なのかな?」
「そうだな」
「……それにしても、今のところは盛り上がりに欠けるね」
「ドラマがあるわけではない、とは言ってたからな」
話は、主人公の男の周りで起こる些細な出来事が少しずつ繋がって、別の出来事に関わってくるというもの。ただ、それが本当に些細過ぎてコメントに困る。嫌いじゃないんだけどね。
「朝霞君はどう思う?」
「画自体が白ベースだから、淡泊さや平坦さをより強調して淡々とした印象は受ける。男の衣装も白だし。所々で出てくる黒猫が画でも話でも象徴的役割を上手く果たしてるなと」
「なるほどね」
「圭斗はどう思う?」
「僕は派手な作品やラブストーリーを好むからこういうのはあまり見たことがないんだけど、日常という感じだね。誰の身にも起こり得る。“すこしふしぎ”のSFかなと思ったけど、そうでもないし」
朝霞君は映画の特徴とこれを書いた彼女の人となりを僕に教えてくれた。これを書いたのはごくごく平凡な女の子で、誰のことも傷つけず、みんなで仲良くしていたいと思っていると。
それは話の上にも表れていて、仮にフィクションであっても誰かが痛い目に遭ったり悲しい目に遭ったりするような話は絶対に書けないそうだ。ただ、悲しみや辛さを知らない分幸せも書けない、と。
「確かにこの平坦さは磨けばこれ以上ない武器にはなるんだけどな。独特の味と言うか」
「ところで朝霞君、三井はどこに出てたんだい?」
「あ、俺も気付かなかった」
最初から見直して、今度は三井を探せゲームをしていたけれど、結局豆粒程度にしか見つけることが出来なかった。その程度でムービースターとして振る舞っていたと思うと笑いすら出ない。
「ところで、朝霞君は三井から彼女を守ったそうだね」
「人のことを壁にしやがって伏見の奴。ミッツもミッツでベタベタ触ってきやがって、もーうイライラしたから俺はステージ前だっつって2人とも追い返してやった」
「ステージ前の鬼の朝霞Pに勝てる奴なんかそういないだろうね。ところで朝霞君は、彼女のことをどう思ってるんだい?」
「本人のやる気次第だろうけど、もう1年あるし平坦さを伸ばせればいいと思う。“すこしふしぎ”の要素はアイツもやれるだろうから、こういう意見もあったとは伝えておく。サンキューな圭斗」
僕が求めていたのは恋愛対象としてのそれだったんだけど、どうやら朝霞君には映研の脚本家であることが最重要に見えなくもない。ま、それに結びつけた僕が野暮だったね。愛の伝道師の性かな。
結局、映画鑑賞はこの後も続いた。朝霞君の部屋にはおびただしい量のDVDがある。見てみたい物を選ぶだけでも結構な時間だし、楽しい。ただ、どこか尾を引く平坦の余韻が僕を白の世界に縛り付ける、そんな錯覚を抱いたんだ。
end.
++++
圭斗さんもナノスパ比では結構映画を見るけど、朝霞Pとは少し見るジャンルとかが違うのかしら。圭斗さんは派手なのが好きなのね。
ムービースター三井サンが出演していたらしいふしみん脚本の星ヶ丘映研の作品の上映会が行われたのだけど、まあ、モニター会よな……
ところで朝霞PはそんなにたくさんDVD買うお金どうしてるんですかね→「古き良き名作はワンコインで買えたりワゴンお安く売られてたりもする」