「よし、これでミキサーは大体集まったな」
高崎先輩と伊東先輩に呼び出されたのはミキサーばかり。一体何の話をするのか知らされないまま集まったものだから、緊張感が物凄い。何か深刻な問題でも起こったのだろうか。
「大祭の女装ミスコンで伊東が優勝したのは知っての通りだが、その優勝商品の機材カタログが手元に届いた。っつーコトで、ミキサー陣で話し合って、どの機材と引き替えるか決めてくれ」
「俺と高ピーで決めても良かったんだけど、これから使う機材のことだし1・2年生で決めてもらった方がいいだろうからね」
大学祭の目玉イベントとして2日目に開催された女装ミスコンは大盛況。景品は有名メーカーのカタログの中から10万円以内で1つ。放送サークル的にはかなり魅力的だ。
ちょうどデッキの買い換え時だったこともあって、それに目を付けた高崎先輩が伊東先輩を売った結果、なんと優勝してしまったのだ。表現は悪いけど、経緯を聞くとこう表現するのが正しい。
「買い換え時なのは掃除機とCDデッキだけど、値段的にはもっと高いの行っときたいよなー。あと空気清浄機もあっていい」
「掃除機と空清は却下」
「えーゴティ空清は要る要る!」
「カズ先輩引退したっすよね。つか10万以内で何台でもっつーのにしてくれりゃ良かったのに、大祭実行もケチだな」
高崎先輩からカタログを受け取った新機材部長のL先輩と新会計の五島先輩はさっそくそれを眺め、あれがいいこれがいいと品定め。その様子を3年生の先輩が見守っている。
「高木、ところでお前2位の景品何だったんだ?」
「2位の景品は女の人が好きそうな綺麗なお酒のセットだったんですけど、俺は未成年なので同等の値段の商品券に変わりました」
「残念だったな」
「そうですね」
「お前が1位で伊東が2位だったらある意味完璧だったっつーコトだな」
「まあ、MBCC的にはそうなりますかね」
あまり思い出したくはないけど、俺も成り行きでその大会に出ていた。何かの間違いで2位になってしまって黒幕の果林先輩が大喜びしていたのは今でも昨日のことのように思い出せる。
高崎先輩も伊東先輩に勝手に応募されていた緑大のミスターコンテストで2位だったこともあってMBCCの露出は高く、それの影響なのか焼きそばの売り上げも過去最高だったらしい。
そんなこんなで現在のMBCCは機材を買い換えるのに躊躇はあまり要らないんだけど、それでも節約出来るところは節約して、来る飲み会シーズンに備えたいというのが先輩たちの意見。
「五島、ミキサーにする?」
「でもミキサーだったら果林がヒゲさん色仕掛けでオトしてサクッとやれね?」
「果林の場合色仕掛けじゃなくて強奪だろうけど、これからは高木もいるしミキサーに関しては確かに問題なさそうだな」
「それでなくてもヒゲは飽きっぽいしな。使えもしねえ機材買いまくって肥やしにしてっから果林と高木が上手くやればそのうちMBCCに落ちてくるだろ」
やいやいと話し合う先輩たちをよそに、俺はカタログをそっと引き寄せてそれを読み始める。あ、こういうコンポいいなあ。あっ、でもやっぱりいい値段するや。欲しいけど、夢のまた夢だ。
「タカシ、コンポ欲しいの?」
「やっぱりこういうオーディオには憧れますね」
「こういうカタログ見るのすげー楽しいよなー、買える買えないは別にして」
「伊東先輩は自分の物にする権利があると思いますけど、どうしてサークルにこれをくれるんですか?」
「この話を持ちかけてきた高ピーが、サークルのことしか考えてなかったからじゃないかな」
3年生の先輩からの置き土産をどうするかも1・2年生次第ということなのかもしれない。これからのサークルをどうするかということにも係ってくる。ただ、救いはこのカタログがオーディオメインということ、かもしれない。
end.
++++
これがオーディオ類メインじゃなくて家電全般だったら戦争になっていたと思われるMBCCの機材カタログ話。
そう、商魂たくましい高崎でしたが、いち氏の言うように意外とサークルのことしか考えていなかったらしい。
いつかこの女装ミスコンの件はタカちゃんと果林のあれやこれやという視点からやってみたいと思いました、まる