「さァーて、年末特番について話し合いヤすかァー」
放送サークルMMPでは、1年間の集大成として年末特番という物を作っている。年によってそれは長時間の企画番組のこともあるし、ラジオドラマのこともある。
菜月さんの脚本デビュー作品「腐れミカン」は一昨年の年末特番だし、その次の年は「待ち合わせ」というこれもまたラジオドラマ作品だね。さて、今年はどうなるやら。
「ま、例によってラジドラすかネ」
「律、いくら何でもそれは結論付けるのが早くないか」
「じゃあ野坂、対案出して下せェよ」
「スイマセンデシタ」
りっちゃんの議事進行は良くも悪くも次世代の味が出つつあった。ムライズムを受け継ぐ大喜利大会が始まる前に方向性だけ決めてしまおうというのは得策だね、さすがりっちゃん。
「へぇー、ラジオドラマねえー…!」
「ひっ…!」
全会一致で年末特番がラジオドラマに決まったところで、どす黒い炎が上がる。火元は他でもない菜月さんだ。ゆらゆらと蠢く復讐の炎は今にもラブ&ピースで延焼しそうだ。
確かに秋学期になってからはラジオドラマを巡っていろいろあったからね。身の程知らずとか何とかと作品出典のモニターで偉そうに言ってた三井に堂々とキレていたのは記憶に新しい。
「あ、あの、菜月サン……」
「へぇー、ラジオドラマねえー! ムービースターの三井サンがどんな脚本を書いてくれるのか、楽しみだなぁー!」
「うーわっ、やっぱり覚えてた」
「ちなみに10月5日の16時57分に台本書くって言ったぞ」
「えー、普通そこまで覚えてる〜?」
「はっきり覚えてる。書記ノートにも書いたからな」
「三井先輩、菜月先輩は根に持つタイプでいらっしゃいます」
「あ、ホントに書記ノートに書かれてますねッ!」
何月何日何時何分何秒、とかいう小学生めいた喧嘩の売り文句は菜月さんには通用しないね。秒はともかく何月何日何時何分と正確に言い当ててくるんだから。
まあ、三井に脚本を書かせると言っても菜月さんとりっちゃんにも書いてもらわないととてもじゃないけど一本の脚本すら完成することはないだろう。MMPというのはそういうサークルだ。
「ん、僕と神崎は例によって検閲係でいいのかな」
「そースねェー。自分と菜月先輩にあンま自由にやらせたらいろんな意味で死人が出やすわ」
「……まあ、菜月さんによって三井が死ぬことに関しては余程悪質でなければ放置するよ。僕も命が惜しい」
「それはしゃーないスわ」
あとは菜月PとりっちゃんPが大まかにどういう話にするかを話し合って脚本をそれぞれ書いてくる。それを僕や神崎といった検閲班がチェックを入れながらPたちと一緒に一本の話にまとめるという流れだ。
ただ、今回は期待できないとは言え三井にも脚本を書くノルマが課せられている。それもある意味楽しみではある。果たしてその口に実力は伴っているのか。
「つかMMPのラジドラって外に出したらどういう評価になるンすかねェー……」
「ちなみに某Pに過去作を何本か聞かせたところ、時折抉るような辛辣さもありつつ心温まる展開の裏にあるさりげない毒設定やパロディ要素が上手く噛み合って、技術はともかく楽しい、とのことだよ。あと、編集が素晴らしいとのこと。さすがミキサー陣」
「ちょっと待て圭斗、お前、うちが出てる作品は聞かせてないだろうな」
「出てない作品を探す方が難しいじゃないか」
「無許可であれを外に出すな! ……圭斗をどう殺すかな」
おっと、最後の最後に地雷を踏んでしまったね。ま、僕が死ぬことに関してはよほどいい話でない限り僕自身の手でその未来を消すことが出来るんだけど。
end.
++++
MMPの年末特番はラジドラになるそうですが、菜月さんがダークサイドに行ってしまっていますね……
菜月さんは割と些細なことでも根に持つし、いいことでも悪いことでもいついつお前はああしてこうしてああ言ってこうなった、みたいなことをめちゃくちゃ覚えてる。酔ってたとしても覚えてる。
圭斗さんと神崎はMMPのラジドラを支える……いや、MMPのラジドラを崩壊させない最後の防波堤である。