「はー、間に合った! おはようございます」
「あっ、烏丸さんおはようございまーす」
バタバタと情報センターの事務所に駆け込んで来たのは烏丸さん。そんなに急がなくてもまだ利用者が多くて大変だーってワケでもないのに、真面目だなあ。
B番はまだ林原さんがいますし急がなくて大丈夫ですよーと言えば、ユースケに迷惑かけちゃう、とまたバタバタと急いで支度を始める烏丸さんと言ったら。
「烏丸、来たのか」
「あっユースケ今代わるよ! ごめんね遅れちゃって!」
「いや、今いる利用者は利用態度もいいし放置でも問題ないくらいだ。オレはどちらにしても春山さんが置いていった書類仕事を片付けねばならん」
「あれっ、そーいや春山さん最近見てないね」
「ロケットの打ち上げがあると見に行こうとするからなあの人は。実際に予定が付いたのだろう。その後でふらりと旅をしながら何日か後に戻って来るのがお決まりのパターンだ」
そう言って林原さんはやかんを火にかける。慌てて自習室へ入って行こうとする烏丸さんを、茶でも飲んで行けと制して。
「じゃあ、ご飯食べていいかな」
「構わんが」
「よかったー、さすがにお腹空いてさー」
烏丸さんが笑顔で取り出すのは食パン。最近は2枚から3枚単位で袋に入ってる物もあってちょっと食べたいときに便利だよねーってそうじゃなくて。食パン?
烏丸さんに触発されたのか、林原さんも自分のパンを取り出す。林原さんのはチョコチップの入ったスティック状の物で、一袋に7〜8本ほどが入っている。
「烏丸さん食パンそのまま食べるんですかー? 味とかなくないですかー?」
「えっ、美味しいよ食パン」
「焼かないんですか?」
「しっとりしてて美味しいよ、これは安いしほんのり甘みもあって俺のお気に入りなんだ」
俺がご飯派だからかもしれないけど、食パンをそのままっていうのはちょっと味気なくないかなーと思って。せめてマーガリンとかジャムとか塗りたいな。
「食パンか。そういや最近はご無沙汰だ」
「ユースケ、食べてみる?」
「ほう、それではオレのと交換するか。3本くらいがいいだろう」
「えっ、ユースケの、チョコチップ入ってるよ? いいの?」
「構わん」
「うわー……さすがユースケだ、気前がいいなあ……チョコチップだよチョコチップ」
ふと思ったんだけど、烏丸さんが物を食べているシーンというのがとても貴重な気がする。たまに見たことがあってもブロック状の栄養機能食品とかだったりするし。
今も、林原さんの甘いチョコチップの入ったパンに見せる感動が何となく現実離れしていると言うか、何だろう、うーん。
「ほう、この食パンは美味いな」
「そうでしょ、しっとりしてて。バターの味もしてさ。でもユースケのこれも美味しいなー、でもチョコチップだもん、俺には贅沢だ」
「高い代物ではないぞ」
「子供の頃から甘い物ってほとんど食べなかったから、今でも貴重だーって思っちゃって。食べようと思えば俺の意思で食べれるんだけど、手が出ないね」
「お前がどういう生活にあったのかは知らんが、食パンひとつからそれだけ味を感じ取れるのは悪く無かろう」
「そうだね」
ピーッ、カタカタとやかんが音を立てる。と言うか先輩たち、パンを食べるなら飲み物を淹れてからにすればよかったのに。
「さ、休憩は終わりだ。何故オレがあの人の尻拭いをせねばならんのだ」
「じゃ、俺は自習室に行ってきまーす」
「スマン烏丸、結局茶が飲めずじまいだったな」
「ううん、平気!」
烏丸さんのマグカップは、緑茶のティーバッグがぶら下がって待機状態のまま。烏丸さんには申し訳ないけど、俺は自分のお茶と書類仕事を始める林原さんにミルクティーを淹れようか。
end.
++++
リン様とダイチがパンをもそもそと食べてるだけのお話。自分たちばっか食べてないでミドリにも分けてあげればいいのに先輩たち。
リン様はチョコチップスティックと一般に呼ばれるパンとミルクティーを一緒に食べるのが好き。ダイチは何か食パンをそのままもそもそと食べてるらしい。
そしてミドリはごはん派とかで、一度タカちゃん辺りとごはんをどうやって食べるかっていう話をしてもらいたい。