「はい、こーたクンはかき揚げね」
「すみません、ありがとうございます」
意味がわからない。
ところで、“意味がわからない”というのは文字通り理解が出来ないという意味で用いられるんだけども、それは同時に理解することを拒否する、置かれた状況に対して異を唱えたいときにも用いられるものである。
「何故お前がうちにいて、何故年越しそばを食おうとしているのか」
「フミ、根性のひん曲がったこと言わない。具にきのこ混ぜるわよ」
「スミマセンでした」
「でも、こーたクンの弟さん今高校3年生でしょう、そんな年頃で彼女の家と家族ぐるみの付き合いをしてるって凄いわね」
「若気の至りもあるとは思いますが、外堀は順調に埋まってるようなので彼女が16歳になれば入籍するーとか言い出しかねませんね」
例によって家族に放置されたこーたが何故かうちに転がり込んでいる。今は彼女の家族とこーた以外の神崎家の面々が揃って旅行に出ているとかで、こーたが留守宅を預かる鍵っ子となっている。
いつの間にかこーたと母さんは結構仲良くなっていたようで、たまたまうちに遊びに来てたこーたが状況を話せばまあこうなりますよね! こーた曰く「親年代の女性と仲良くなるのは得意」だそうだ。
「哀れ、ウザドル。彼女もなく家族には見捨てられクリスマスも年末年始もバイトで終わる独り身の権化」
「野坂さんに言われる筋合いはありません」
「そうよフミ、ちょっと短期バイト始めたからって調子に乗らない」
「スミマセンでした」
俺は俺でこの冬休みに短期バイトを始めた。それと並行して間近に迫った成人式に向けても慌ただしく動いている。ああ、何気に俺は地元の成人式実行委員的なものにも選出されていたりする。
「はいフミ。アンタ本当にかき揚げいいの?」
「かき揚げも食べたいけど肉の方が食べたい」
「野坂さんの胃の容量なら肉もかき揚げも食べられるでしょうに。あなたのことですからサークルでのおでんパーティーの時みたいに「そばは食べたうちに入らない!」などと言うかと思ったんですが」
「でも年越しそばを2回食べるって違くないか」
「そういうときばかり妙なこだわりを見せるんですから。両方おそばに乗せるのではダメなんですか?」
「わかるかこーた、かき揚げと肉って毛色が違うだろ!」
「あなたそういうのを気にするタイプでしたっけ」
そんな言い合いもそこそこにいただきまーすとそばを食べ始める。いいんだ、肉が美味いんだから。本来は肉ときのこ炒めを乗っけるのが野坂家流だとしてもきのこはいらない。きのこなんて菌じゃないか。
ただ、こーたがまた美味そうにかき揚げを食ってるのが憎たらしくて憎たらしくて。それでいてあーおいしいなんてわざわざ俺に対する当てつけのように言ってくるのがウザい。
「野坂さんのお宅のかき揚げはおいしいですね。分厚さがあるのに中までしっかり揚がってサクサクで。食べ応え十分ですし衣が汁を吸ったときに野菜のうま味がグッと来ると言いますか。おそばの茹で具合もちょうどですし、風味が鼻から抜けますね。さぞかしいいおそばなんでしょうね」
「さすがこーたクン、食べるだけ食べて感想も何もない、味わってるのかどうかもわからないドラ息子とは大違いだわー」
「とか言ってこっちをチラ見されても。あー、えーと、肉が美味いです」
「本来はきのこがあってこそよ」
「きのこは要らない」
すると今度はこーたの元に肉ときのこ炒めを乗せたそばが盛られた小さなお椀が出てくるのだ。出るか、出るのかウザドルの食レポが。
「きのこの風味と食感が見事にマッチして。肉のうま味と脂分がそばのお出汁にかき揚げの時とは違うコクを生み出してますね。これはこれでまったりとして甲乙つけがたいですね」
「うわ出たーウザドル出たー」
「あらー、さすがこーたクン。フミ、アンタももうちょっと語彙力をつけなさい」
「どうしてそうなるんだ。意味がわからない」
end.
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神崎が野坂家に馴染みすぎていることをノサカ以外誰も不思議がらなくなってきたところで年末の野坂家です。
ノサカは食べるときに何がどうおいしいということを考えているのかはよくわからないけど、とにかくお腹が空いたときにはガーッと食べるだけになってそう。
神崎家のわちゃわちゃもまたMMPで話してみてほしいしそれでまたりっちゃん辺りにラブピされてると楽しい。