今年も例によって親戚への挨拶に疲れた浅浦がうちに避難してきている。俺は床に寝そべり、浅浦は本を読みつつサッカーやら駅伝やらをだらだらと見ている、そんな正月だ。
浅浦の家は結構親戚が多くて、正月や何かになると一族みたいな人がずらずらと挨拶をしに来る。さすがに元日は静かだけど、その分2日になるとすっごい。どうすごいかって言うと、ヤバい。
「はー……帰りたくねー……」
「浅浦、お前相当ガチだな」
「朝からひたすら挨拶して酒の相手だろ。未夏は友達と初詣行くとかって早々に逃げやがったし」
「そんな状況で逆によく逃げれたな」
「程々に酒が飲めない体を装ったんだ」
「なるほどな。酔って気分が悪くなったフリか」
「そういうことだ」
浅浦は俺と比べると結構飲める。まあ、飲めない俺と比べてもどれだけ飲めるかってのはわからないけど。MBCCだったら……うん、多分ハナちゃんよりはイケる口かもしれない。
酒豪集団MBCCの中に俺以外で比較対象がいるという時点である程度飲めて、ちょっと酒に付き合ったくらいじゃ気分なんか悪くならないということはお察しいただければと思う。
「あとは母さんに体温計見せて逃げる理由は突きつけてきたし」
「どーせ38度ぽっちで逃げてきたんだろ」
「普通の人なら休めって言うからな」
浅浦は平熱が高い。37度は当たり前、38度でも微熱だからまだ普通に動ける。39度行ってやっとちょっとだるいかなと思い始めるレベルだ。逆に36度代とかになるとどうしたってなるから怖い。
37度8分を指した体温計をママさんに突きつけて、雅弘は熱が出たのでこれで休ませていただきますと一礼してもらったそうだ。もちろん、ママさんがこれを仮病だとわかってない理由はない。
「そういうことだから京子さんに挨拶したとき冷蔵庫にケーキ入れといた。後でみんなで食べてもらえると」
「マジかサンキュー! えっ、ママさんのケーキ?」
「ああ。逃げるなら持ってけって言われたし」
「さすがママさん、お前の行く場所をわかってんな」
「実際、他に徒歩で行ける場所もないしな。図書館も開いてないし」
「そっか、お前酒入ってたな」
こういう時にそういうのに対して律儀だとめんどいなって思ったりもする。うちはそういうのはそんなにちゃんとしてないって言うか、あっさりしてるようなところもあるから。
もちろんちゃんとするところはしてるけど。日頃から世話になりまくってる浅浦家には挨拶するし、じっちゃん家での餅つき大会も恒例行事。でも、その他はお歳暮とか年賀状でおしまいだ。
「うちもそういうのでいいと思うんだけど」
「足して2で割るくらいがちょうどなんだろうな」
「ああ、そんな感じだな」
「つか風呂行きたくね」
「いいな。でもどうやって行く。俺は酒入ってるぞ」
「……えっと、バイクで?」
「いや、寒いだろ。あと風呂入ったのに野ざらしとか風呂入った意味がない」
うだうだと、作戦会議は続く。浅浦は親戚の挨拶回りが終わるまで逃げ延びたいし、俺はこのヒマを潰したい。最たる希望は風呂に行くことだけど、はてさてどうしたものか。
「姉ちゃんに車借りれないかな」
「聞いてみてくれ」
「あ、つかさ浅浦、俺気付いちまったんだけど」
「ん?」
「風呂セットどーする、お前、車ン中だよな」
「あー……まあ、手ぶらで行けないこともないし」
「つかお前財布持ってきてんのか。俺が見た限り本とケータイしか持ってな」
「見なかったことにしてくれ」
「お前俺に出させる気か」
end.
++++
やっぱり年末年始にはこの人の話が来ないとしっくりこない。年始の浅浦雅弘、今年も例によって親戚付き合いに疲れていち氏宅に避難してきた様子。
浅浦クンは浅浦クンでいくらいち氏宅でも人の家の冷蔵庫を勝手に開けることに対しては躊躇するんだけど、そこは京子サンなので雅弘冷蔵庫入れといてーって問答無用よね。
と言うかいち氏と浅浦クンのあれこれでいち氏の方がどことなくしっかりしてるように見えるのがかなり珍しい、というかやったことあんのか!? レアだー、さすが新年だー