「はーい」
鳴り響くインターホンに、トタトタと玄関に向かう。部屋に戻ってきた高木の手には、段ボールが2箱。よいしょと下ろされたそれは、ちょっとした重量感。
うちひとつは実家からこっちに送り返した服や何か。移動の時に邪魔になるからいちいち持ち運ばず、郵送しているらしい。もうひとつは高木本人にも見覚えがない箱。おそらくお袋さんが積めてくれた物。
「何だろう」
「とか言いながら服の箱放置すんな。すぐ片付けろっていう」
高木が帰ってきて早々この部屋にいるのにはまた例によって下らない理由がある。まあ、確かに頼む方も頼む方だけど、受ける俺も甘いとはわかってんだ。うん、わかってはいる。
この正月休みにもしっかり昼夜逆転しやがったコイツが、授業に出れるように起こしてくれとか何とかっていうダメ人間っぷりを発揮しやがっているのだ。
家主に放置された服の箱を開けて片付けながら、もう一方の箱を開いていくのを眺めていた。中身がお目見えすると、それはもう潤沢な食糧群。しばらくは買い物に行かなくていいんじゃね、と思える程の。
「えっと、パスタにパスタソースにお米。あっ、これはレンジであっためるタイプのレトルトかな、丼の具だ」
「さすが親だっていう。食生活をわかってんべ」
「あとはソースに、地域限定のお菓子も入ってる。これ、おいしいんだよね。あ、これはお酒だ」
その他にはツナ缶だとか、コイツが微妙に贅沢だと言って手を出さない物、特に長期間保存の利く物が入っていた。一人暮らしなんかをしていると、こういう物資はとてもありがたいのだろう。
「お前の母ちゃんマメだな。酒まで入ってるし」
「お酒は多分父さんかな」
「つか高そうな酒」
「多分ある程度するだろうね」
父ちゃんが箱に忍ばせたと思われる高そうなウイスキーの瓶はひとまずデスクに飾られることになった。いざというときに開けることにしたらしい。いざっていつだ。
「つかお前の親はお前がこんな生活になってるって知ってんのかっていう」
「あー、何となく察しはつくみたい」
「だろうな」
「こっちでどんな感じなのかっていうのは聞かれるからさ。それで、よっぽど俺エイジのことばっかり話してたみたくて、友達にお土産買ってけってすっごい言われたし」
「何を話してたんだっていう」
「いろいろだね。あ、そうだ、エイジにお土産あったんだった。忘れてた」
そう言って高木は届いた荷物の箱を横にやって、手で持ってきた荷物の方から紙袋を引き寄せた。チラリと見える中身は、包装紙に包まれていて結構な雰囲気だ。
「えっと、まずはソースと」
「つかお前どんだけソース出てくんだっていう」
「ソースは大事だよ。お好み焼き食べるときとか」
「うん、まあ、うん。で、ソースと?」
「ベタだけどまんじゅう」
「マジか、サンキュ」
高木が言うには、俺が思う一番いい店のまんじゅうを選んだから多分美味しいはず、とのこと。まあ、変なこだわりの強いコイツが美味いっつーんだから美味いんだろう。
俺は俺で、母ちゃんから持たされていた手土産のことをすっかり忘れていた。ここに入り浸ってるから持ってけって。別に邪魔してるワケじゃなくてむしろ世話してんだけど、とは言ってないからしょうがないけど。
「エイジ、これどうしたの」
「何か、俺がここにいつも入り浸ってるからって母ちゃんに持たされた。中身は多分包み的に栗きんとん――ってマジか! 栗きんとんとか朝イチで並ばないと買えないっていう!」
「えっ、そんなすごい栗きんとんなの」
「栗きんとんっつってもウチの栗きんとんは全国的によく言うきんとんとはちょっと違って」
「食べてみたいなあ。開けてよエイジ」
意図せず始まった土産大会だ。互いの酒を傍らに。高めの酒を開くのは今じゃない。果たして甘い物にビールやらウイスキーが合うのかはわからないけれど。
「これ食い終わったら部屋片付けるべ」
「え、まだ綺麗じゃない?」
「その都度片付けるのが基本だっていう」
「えー」
end.
++++
今回のお帰りタカちゃん回は果林とのご飯ではなくエイジと待ち受ける実家からのお荷物でした。
そう、お部屋はその都度片付けるのが基本。それが出来なくなってくると大変な部屋になるのであった。TKGに限らず菜月さんにも言えるぞ!
タカちゃんはソースに結構なこだわりがあるらしい。そういや大学祭の焼きそばのときにもソースにはこだわってましたね