「両足で着地、左に首振り、からの右にターンで、ひゃああっ!」
ひゃああと叫びながらのシュートはガコンとリングに弾かれ、ボールは転々と転がる。と言うか失礼な奴じゃん? 人の顔見て叫ぶとか。こっちだって好きで叫ばれるような顔はしていない。
「三浦、いい加減慣れろ」
「だって鵠沼クン威圧感すごいんだもん! 顔怖いし!」
「って言うか鵠っち慣れたらダメじゃない?」
「そうは言っても叫ばれるとこっちもビビるんすよ」
「ディフェンスなんていつ出てくるかわかんないんだから。しかもさっちゃんセンターだしポストプレー中心なんだから、常に背中にディフェンス背負うようなモンだよ?」
今やっているのは三浦のポストプレーの練習。大学からバスケを始めた三浦も、練習の成果でゴール下のシュートは大体入るようになってきた。ここで三浦にも試合で使える動きを教えてみようと。
ディフェンスなしの練習では大体決まるようになったところで、次は一段階ステップを踏むことに。突っ立って手を上げてるだけのディフェンスを置いて同じことをやろうと。それでこのザマだ。
「あとね、ちょっと姿勢が悪くなってるかな。もっかい壁使って確認しようか」
「はーい」
「はい壁に背中ー」
「べたーっ」
「そのまま腰落としてー、背中曲げない」
「ずるずるー」
「で、スタンス広げて」
「はっ!」
「背中はなるべく立たせて、面で受ける感じ。肩開いて、こう」
「効く〜」
「手を広げたときにこの面が広くなるとこっちもパス出しやすいよ。あと、ディフェンスのときにも使える姿勢だからね、これを覚えといて損はないよ」
「ほいさ!」
GREENsに入って半年以上が過ぎた。スリーポイントだけに特化してると思っていた慧梨夏サンだけど、その他の指導が案外まともだということを知る。基礎が出来てんだろうなやっぱ。
太股をプルプルと震わせながら、三浦は姿勢を確認している。遊びのイベントが楽しそうだから入ったという割に、バスケも案外ちゃんとやってるのが好印象だ。
「て言うか慧梨夏さんてすごいですよね、スリーポイントなんてどーやったら届くんですか? 腕の力?」
「腕よりは脚かな。全身のバネって言うか。真っ直ぐ上ってきた力をそのままスッと手首使って指先にかけるの」
「へー! って言うかあんな遠くから真っ直ぐボールが飛んでくのがすごいですもんあたしフリースローすらまともに行かないですし!」
「じゃ、ポストプレーが一段落したらフリースローやろっか」
「やったー!」
壁に背中をつけ、腰を落とした姿勢のままそんな会話をしているものだから、どこか滑稽だ。
「鵠っちもフリースローやるでしょ?」
「あー、じゃあやっとこうかな」
「やっとこうかな?」
「あースイマセンやらせてください」
「That's right.」
慧梨夏サンからすればもらったフリースローを確実に決めてくるのは当たり前。外してしまうと相手に希望を抱かせてしまうから、ということらしい。
何を隠そう俺はフリースローが苦手だ。そもそもミドルレンジのシュートが苦手というのもあるけど、邪魔をされないが故の緊張感みたいなのが。リバウンド勝負みたいなところがある。
「ついでだからさっちゃんもフリースローのときのポジション取りやろっかリバウンドの」
「はーい」
「フリースローは男女平等だからね、ここで頑張ればさっちゃんも鵠っちに勝てるよ」
「よーし勝っちゃるよー! 勝ってカツ丼奢ってもらうぞー!」
「マジで言ってんのか、いいけど」
「えー鵠っちうちが勝ったらバジーナのボロネーゼ〜」
「慧梨夏サンは反則じゃん? ハンデもらっても勝てないっす」
「男がそんな弱気でどーする! 罰としてボロネーゼか実家から卒アル取ってこい!」
「かかる費用段違いじゃん!?」
end.
++++
今回は意外とまともだった慧梨夏だけど、最後の最後に欲望が出てしまったのは罠。美弥子サンがいなきゃ抑えられるのか
三浦さっちゃんは結構きゃぴきゃぴとしつつ明るく元気な女の子。身長は確かいち氏と変わらない169cmのはず。
……はっ、もしかしていち氏女装ミスコンの衣装なんかも慧梨夏はさっちゃんに相談したりしてたのか…!?