目が覚めて、今の時刻を確認すれば午前6時半過ぎ。まあ、割とよく寝れた方だと思う。ベッドに目をやれば、すう、すうと寝息を立てる家主。目覚める気配はない。
元々、放送部という部活が上下関係にちょいちょい厳しい方だとは思うけど、それを抜きにしても朝霞はお堅い頭をしていると思う。他の奴相手ならともかく、俺相手のときですらも。
今回は俺が雑魚寝をしたけど、いつもは「越谷さんに雑魚寝をさせるわけには」「いや、いーからお前がベッド使え」というやり取りで30分は使う。これはどっちの部屋でも発生するイベントだ。
朝霞と飲んだ時は潰れるのを止めないに限る。先のやり取りがめんどくさいというのもある。それに酔った時は基本的に話が長いし、同じことを何度も話す。2回目までは聞くけど、3周目に入るとさすがにめんどくさい。
何と言うか、普段は間違っても言わないようなことを、酒を飲むとぼろっぼろと吐き出しにかかるワケで。それは不安だったり、愚痴だったり。希望であり、夢であったり。
変なところでクソ丁寧なクセして酒飲んで絡むとかお前先輩をなんつー扱い方してんだ、と思わないことはない。まあでもその辺は先輩の余裕ってヤツ?
「ん……」
「起きたか、朝霞」
「……あ……こしがやさ――」
俺の存在に気付いたのか、朝霞の左手はバタバタと宙を扇ぐ。バンッと強い音を立てながら掴んだメガネをかけてその次にどうしたと思う、ベッドから飛び降りて正座だぜ、正座。
「ホントスイマセン毎回!」
「だからいいっつってるだろ毎回」
「越谷さんは良くても俺はダメなんです!」
「はいはい。とりあえずおはよーさん」
「おはようございます!」
「なに怒ってんだ朝っぱらから」
洗面所に向かうのかと思ったけど、壁に手をついて、動く気配が見られない。ピタッと止まったまま、30秒ほど。立ちながら寝ているというわけでもない。
「朝霞、大丈夫か」
「ただの立ちくらみです」
「二日酔いか」
「ではないです」
越谷さんが朝っぱらから俺をビビらすから変な血の回り方でもしたんじゃないですか、とテメー本当は俺の事先輩だと思ってねーだろといつかマーと話したようなことが蘇る。懐かしいな。
いつかの飲みでマーは、圭斗が完全に自分をイジって遊んでるんだよなーというようなことを笑いながら言っていた。そりゃマーお前、お前と圭斗だからだろって俺も笑って返してたけど。
「俺、朝弱いんですよ」
「知ってる。朝弱いっつっても洋平と戸田には寝てるイメージがないとか言われてイジられてんだろ」
「俺はアンドロイドかっつーの」
「だからロイドなんてあだ名になったんだろ」
「俺だって、普通に寝るし飯食うしトイレ行くし、感情や表情だって割と豊かな方だと思うんです」
「体が落ち着いたなら顔洗って来い。続きは今度聞いてやるから」
ポンと肩を叩き、よろよろと歩くその背中を見送る。蛇口から流れる水の音が、聞こえてきたり止まったり、また聞こえてきたり。あ、コイツお湯出してやがるな。
洗面所から戻って来た朝霞は、コンタクトを入れて始動するモードに入ったらしい。だけど時間はまだ7時過ぎ。少しばかり早起きしすぎたけれど、さてどうする。
「越谷さん、いつも本当にスイマセン」
「いいっつってるだろ。俺も、お前みたいな後輩がいると先輩冥利に尽きる。洋平も戸田もソツがねーんだよな」
「アイツらは俺が思う以上にデキますからね」
「まあ、なんだ、ナントカな子ほどかわいいって言うし」
「どうせ俺は不出来ですよ」
「不貞腐れるなよ。そうだ、朝飯食おう。材料ないなら食いに行くぞ」
end.
++++
土曜日はさすがにテストがないらしく、酒を飲んでたらしい朝霞Pとこっしーさんである。割とここもちょいちょい行ったり来たりなのかしら。高崎とLほど頻度は高くないとは思うけどw
星ヶ丘の放送部は上下関係に割と厳しい方の部活なので、先輩に失礼があっちゃいけないというのは基本中の基本。つばちゃん? つばちゃんはつばちゃんですし
朝霞Pはお酒飲むと基本的にぐだっぐだなんだけども、それもナントカな子ほどかわいいで済ませてしまうこっしーさん、デカい人やったんやなあ