「川北、ブラックリストだ。C-12のレベルをBに上げろ」
「はーい。あ、この人またやらかしたんですねー、了解ですー」
「土田、自習室を一旦変わってくれ」
「へーい」
ドカッと腰かけて、大きな溜め息を吐く林原さん、何時間かぶりに休憩に入るらしい。繁忙期は情報センターにも利用者が増えて、その分自習室の対応がひゃーってなる。
当然、普段センターを利用しない人や切羽詰まった人も多いワケで、そうなるとスタッフに無理難題を言って来たり一歩間違えば脅されたり詰め寄られたり。
そういう人たちを林原さんが情け容赦なくバッサリと対応してくれるから俺たちはいつもよりちょっと頑張るくらいでいいんだけど、B番の主・林原さんへの負担はかなり大きくなっている。
一応情報センターの就業規則で1日6時間までしか給料が発生しない仕組みになってるんだけど、林原さんと春山さんに関しては働けば働くほど時給が減ってる感じ。上限の6000円で止まってるから。
「林原さん、ミルクティーどうぞー」
「ああ、すまんな川北。クソ、連中は何故テスト前になって慌て始める」
「年末年始もありますし、年が明けてからが本番って感じなんですかねー」
「ブツブツうっせーぞリン」
「そう言えば、センターの人ってテスト前でもそうじゃなくても勉強してる感じじゃないですよねー」
みんなやるべき時にやってるんだろうけど、ここのスタッフの人が事務所に課題を持ち込んだりっていうのを本当に見たことがない。今から思うとすごい。
林原さんと春山さんは学祭時期にバンドでやる楽譜を持ち込んだりしてたけど、それは学業とはかすらない範囲の話だし。
「川北、そう言うお前は大丈夫なのか。オレや春山さんは履修も少ないが、お前は1年だろう」
「課題は全部提出してありますし、レポートは実家でもちびちびやってたのでー」
「実家に勉強を持ち帰るとか。私ならやんねーな」
「烏丸さんはどうですかー?」
「えっ、俺?」
まだまだ謎が多い烏丸さん。今年から星大に編入してきて、履修自体は1年の俺とさほどコマ数が変わらないーみたいなことは聞いた気がするけど。その割に勉強してる感がないと言うか……。
「俺、テストだからって勉強したことないなー」
「えっ、すごいですね!」
「中学までは半分不登校みたいな感じだったけど、教科書は読めば理解するし、例題を写したら公式とか定理なんて応用出来るようになってない?」
「えー、ならないですよー! ねえ林原さん!」
「烏丸の言うことも全くわからんではないが、ある程度反復学習を必要とはしたな」
「おい、自称・今世紀最後の天才。目の前にガチ天才がいる気分はどうだ?」
「アンタは来春からの働き口を心配するんだな」
「大学の勉強って問題を自分で見つけるから楽しいよね!」
春山さんは卒論を提出してしまったし、後はひとつふたつのテストとゼミだけだなーと4年生の余裕を見せている。ただ、就職は決まってない(就活自体をやめてしまった)ようだけど。
林原さんは本当に出来る人。だけど普段からコツコツやってるからこういうときに特別慌てなくてもいいとか。それと、ゼミ室を実質的な住所にしてるのも大きいとは春山さんのヤジ。
「――っていつまで休んでンすか林原サン!」
「まだ10分も経っとらんぞ」
「俺が行くよ。ユースケは休んでて」
「ああ、そうさせてもらおうか」
B番はしばらくの間、冴さんと烏丸さんの2人体制で。俺は変わらずにA番の受付としてセンターの利用者を案内したり、必要があればブラックリストを登録したり。この時期はBよりAの方がラクだなあ。
「川北」
「何ですかー春山さん」
「冴とダイチ、どっちかがリンに泣きついてくるのは何分後か」
「うーんと、15分以内ってトコですかねー」
「ところでリン、お前にやってもらわなきゃならない書類がある」
end.
++++
情報センターのテスト期間あれこれ。確かにここのメンツはテスト期間だからと勉強しているイメージが全然ない。コツコツ型のリン様&ミドリ、ラブピの冴さん、そしてダイチよ
自習室は戦争状態なんだけど、事務所は事務所でやらなきゃいけない仕事はあるんでミドリと春山さんの2人体制。
やっぱりミドリはお茶酌みがなんとなく似合ってしまうんだけど、これはどういう現象なのだろうか! ん? リン様がやらなきゃいけない書類とは。