「……相変わらずすごい戦利品だね直クン」
「あの、ちょっと手伝って沙都子、山が崩れる」
直クンがプルプルと震える腕で抱えるのは、絶妙なバランスで積み上げられたチョコレートの山。前が見えなくなるほど積み上がった山は、いつ崩れてもおかしくない。
直クンは女子大に何人かいるイケメンとか王子様の枠に入っていて、去年のバレンタインでも大量のチョコレートに埋もれていた。見た目が長身で中性的っていうのも多分大きいんだと思う。
Kちゃんが、だから紙袋を持てって言ってるのにと呆れた顔をしている。紙袋なんて最初から持ってたら期待してたみたいじゃない、とせめてもの反論をする直クンの腕からひとつ、またひとつと崩れそうな山のピースを取り除く。
「ふう、ありがとう沙都子」
「どういたしまして」
「直クンこれ全部ひとりで食べるんだよね」
「しばらくはチョコが主食だね」
「うちもうたちゃんがよくチョコレート食べてるんだけど、甘いのばかりだと栄養偏らないか心配で」
「そうだね、カカオ成分の高いのだったら体にも良さそうだね」
チョコレートにはポリフェノールや食物繊維が含まれるというのはよく聞く話。カカオ分が高ければ高いほど、それも何となく効果が高そう。こないだ、テレビでチョコレートの特集見たけどすごかった。
「うたちゃん、一応出されたご飯を一口は食べてくれるんだけど、それでもチョコレートとかお菓子に落ち着いちゃうから」
「うたちゃんは頭のいい子だから糖分が足りなくなるんだろうね」
「だったらいいけど。あ、でもおうどんは全部食べてくれるんだよ」
「へえ、うたちゃんはうどんが好きなんだね」
「はいはい。うたちゃんがよくできた妹なのはわかったから。直、紙袋あげるから早くそれ片付けて」
「ごめん啓子」
何だかんだ直クンに紙袋を渡してあげるKちゃんは優しいし、直クンのことをよくわかってると思う。誰かがこの時期のKちゃんは直クンのマネージャーだって言ってたけど、何か本当にそんな感じ。
「でも直クン、紙袋2つでも足りないのに、まだABCの友チョコが増えるんでしょ」
「今年は沙都子からどんなチョコレートがもらえるか楽しみだよ」
「あ、アタシも沙都子の楽しみ。作るんでしょ?」
ABCでも毎年みんなでチョコを贈り合う友チョコのイベントがある。バレンタインをそれなりに楽しもうっていう企画。甘い物は正義、とかで。今のところみんな彼氏もいないしね。
……今のところ、みんな彼氏いない、よね…? クリスマスのパーティーもナンダカンダみんな来てたもんね?
「サドニナがどんな爆弾を仕掛けてくるかが怖くもあるけど」
「直、シャレにならないこと言うのやめて」
「チョコの中にゴキブリのおもちゃとか、目玉が出てくるとか、あるかと思って」
「直! だからどうしてそんな悪趣味なこと思いつくの!」
「直クンチョコから目玉出てくるとかホラーだからやめてえええ!」
「ごめん沙都子、そんなつもりはなかったんだ」
2年生は普通で行こうと誓い合ったところで、あたしたちのバレンタインは友チョコ交換にかける本気に落ち着く。
「あ、でもアタシと直は普通にやるけど、沙都子は本気出さないと許さないからね」
「うん、ボクも沙都子の本気が見たいな」
お菓子づくりは得意だし、この時期は雑誌にもレシピが増える。試作しすぎてもうたちゃんがいるから大丈夫。あたしの血や肉にはならないはず。
「わかりました。糸魚川沙都子、一肌脱ぎましょう」
「沙都子すてきー」
「さすがさとかーさん」
「直クンどさくさに紛れてさとかーさんって言わないで」
end.
++++
さとちゃんに妹自慢をさせたかっただけの青女2年生早めのバレンタイン回。だけど直クンが悪気もなくナチュラルに地雷踏んでくなあw
今のところABCには彼氏フラグの立ってるキャラが何人かいたりいなかったりするので、学年が上がる頃には勢力図も恐らく変わっているだろうと……怖いね!
さとちゃんの手作りチョコレートは多分ABCのみんなが楽しみにしてて、それとは別になんかもうみんなでチョコレートケーキでも囲んでたらいいと思うの