「いくみぃ〜、会いたかったよ〜、んーちゅっ」
「ウザい鳴海」
「国際センターはいつ来てもいいね、さっきそこでブロンドの美女に声かけられちった」
「何語で?」
「んーわかんない。英語じゃないみたいだったけど」
MBCCで高崎の次にウザい男と言えばこの鳴海。見ての通り高崎とはウザさのベクトルが違う。人の顔を見るなり投げキッスなんかを飛ばすチャラさ。これでも一応マシにはなった方。
前はアタシの姿を見るなり「ただいまのチューは〜?」とか言って人にハグかましてきやがるから、蹴り入れてやるまでが一連の流れ。何だろ、ユノのハグは素直に受け入れられるんだけど鳴海は何か下心が。
「で、何しに来たの」
「えー、世界の風を感じに?」
「こんなトコにそんなモンがあるとでも? ここ向島よ?」
「でもいくみぃと会えたから今日はもういいや。お茶しよ?」
「しない」
「えー!?」
こっちにいるときは基本的にこの国際センターのカフェテリアでご飯を食べたり勉強したり、留学生の人や教授とコミュニケーションをとったりしている。でも、コレがいちゃねえ。
確かに、国際センターにいるのは国際教養学部の学生がメインだけど、国際しか使えないワケでもない。文学部の英語学科みたいな外国語研究みたいなことをしてる子たちもいたりするし。
でも鳴海は社会学部で、しかも専攻が介護福祉系(将来はおじいちゃんおばあちゃんのアイドルになりたいとは本人談)。海外の例をモデルに制度づくりを〜とかそういうテーマでもない。
「アンタって将来の夢は立派なのに今はクズだよね」
「えっ、なにそれ」
「福祉士って大変って言うじゃん」
「大変じゃない仕事なんてないでしょ」
「アンタにしちゃ真っ当だ」
「それにね、俺をクズだっていうけどいくみぃ、俺だってこの髪型とか服装とか、自分から始めたワケでもないのよ」
「ナンパは好きでやってんでしょ?」
「違う、俺は誘われたお茶を断らないだけで自分からは声をかけないし、お茶以上のことはしないから」
「どう違う。それにアンタが2Pカラーで好き勝手するのが悪い」
「俺といっちゃんの両方を知ってる人、誰に聞いてもそう言うよね」
カズと鳴海は顔がすごく似てる。双子なんじゃないかと思うくらいには。身長が結構な差だから双子じゃないな、でも兄弟かなって思うレベル。で、昔は髪型も服装も似てて、区別するのに苦労した。
ただ、鳴海の趣味のおかげでカズが「ナルミーが誰彼構わずナンパしたりネットに顔出したりするおかげで大変なんだー」って泣きついてきてたのが懐かしい。
最終的にカズがキレたんだよね。今まで通り好き勝手したいなら整形するか髪型と服を変えろって言って現在の、襟足まで伸ばした髪に若干お兄系テイストの入った服、そしてピアスって感じになったっけ。
「今はどう見ても顔のパーツ以外いっちゃんとは別人よ?」
「はいはい」
「なのに何で!? 何で未だにいくみぃもよしのんも、高崎もいっちゃん本人も俺のことを2Pカラーって言い続けんのー!」
「そりゃ存在感がカズのがダンチで上だからっしょ。アンタがカズの色違いなの」
「うう……俺はMBCCサイバー支部に籠もってるだけでサークルを捨てたワケじゃないのに」
「だから何なのそのサイバー支部って」
鳴海はウザい。心底ウザいと思う。年イチで顔を見ればお腹いっぱい。でもサークルの同期であるという事実と、同じ幽霊部員であるという事実は変わらないワケで。
「じゃ、アタシユノと約束あるから行くわ。ブロンドでも黒髪でも、好きな美女と仲良くやってて」
「えー、待ってよいくみぃ〜! 俺もよしのんと会いたいなー」
「ついてくんな」
end.
++++
育ちゃんとナルミー。幽霊部員の再会。ただ、やっぱりと言っちゃなんだけど、ナルミーは育ちゃんにとってもウザかったらしい。
ナルミーは将来のことを一応は考えているようだけど、そのための勉強なんかもそれなりにやってそう。口と真意に差はあるのかないのか。
そしてナルミーが現在の外見に落ち着いた理由なんかもちょいちょい語られましたが……どうやら誰かさんの影がチラリ。