佐藤ゼミ卒論発表合宿2日目。2日目は午前に研修があって午後は自由時間。そして夜にはまた研修というスケジュール。昼の自由時間にはスキーに行く連中もいるみたいだけど、アタシは由香里さんと一緒にセミナーハウスの中でゆっくりと。
何より寒いし、スキーに行くほど元気でもない。スキーに行かない人は他にもいるけど、そういう人はカラオケしてたり麻雀してたり、いろんな楽しみ方をしてる。ちなみにカラオケも麻雀もこのセミナーハウスの備え付けの施設。
「ま、こんな豪勢な施設で、やることはひとつだし」
「唯香さん、張り切ってるね」
「ネットでこの施設のページ見てから、合宿は素材集めのためのものになったよね」
もちろん持ってきているアタシの愛機、一眼レフ。部活の作品っていう意味でもそうだし、その他のも趣味で使う素材っていう意味でも日々の素材採集は怠れない。
このセミナーハウスっていうのがムダに小洒落てて、ロビーと言うかラウンジと言うか、広間にはシャンデリアやグランドピアノ。ソファも赤地で、床の絨毯には刺繍。壁には獣の毛皮と剥製。
夜にオープンされるバーコーナーもその近くにあって、今はオープンしてないけどグラスやボトルと言ったそれらしい雰囲気を醸す物たちはそこにある。むしろ人がいない方が撮影し放題でラクかも。
建物の中だけじゃなくて、外からの眺めも押さえておきたい。湖のほとりにあることがウリだけに、当然そのショットと、併設されたスキー場も素材として持っときたい。
「その素材、どう使うの?」
「コラージュするもよし、資料にするもよし、いろいろかな。あとはトイカメ風に加工したりして遊ぶ」
「なるほど」
アタシと同じ留守番組の由香里さんと一緒に建物の中をぐるぐると回る。どこかいい撮影スポットはないものかと。
「でもさ唯香さん、こういう洋館じみたところって、“あるある”やりたくなるよね」
「ああ……ひとり、またひとりと消えるヤツ?」
「他の町に繋がる唯一の道が崖崩れで塞がれるヤツ」
「電話線が切れるヤツ」
「悲鳴が聞こえて発見される死体」
「俺はこんなところにいられるか、部屋で寝る」
「あるある」
突如として始まる連続殺人。雪山に閉ざされた洋館なんて、いかにもやってくださいお願いしますって言ってるようなもの。問題は、ここに探偵がいないこと。探偵がいなければ殺人もそうそう起こりえないのがアタシと由香里さんの世界観。
「てか由香里さん、こんな洋館なんだし何かそれっぽい衣装あればよかったのに」
「ホントそれ。ドレス系の衣装あればそれっぽくなったと思う」
「由香里さん来年衣装持ってくればいいんじゃない? どうせ来年もアタシスキーには行かないし、撮影したい」
「いいかも。そうしよっかな、唯香さんに撮ってもらえるとかすっごいお得だし」
自由時間はあと4時間。その間どれだけ資料を集められるだろうか。雀卓とかも撮っておきたいし、建物の中をくまなく歩きまわりたい。レストランも結構な雰囲気だったなそう言えば。撮れるかな。
「今日の夕飯もキャンドルかな」
「キャンドルじゃないかな」
「あと1日でどれだけ素材集まるかな」
1年生の関心事なんて、卒論よりも他の事にあったって割としょうがないところがあると思う。普段は来れないようなところだし、趣味と実益を兼ねなきゃだし!
end.
++++
スキーを楽しんでいるであろうスノープリンスの黒淵メガネを借りて来なきゃいけないヤツ〜
というワケであずみんと由香里さんのお話。スキーをやるほど元気でもないし、カラオケ行くほど気分も乗らないあずみんの洋館探索の時間。
死亡フラグを乱立しまくる遊びだけど、エコにはこれが限界でした。この2人ならもっとフラグを立てまくってくれることでしょう