久々に立ったのは、この家の前。一応、名目としては「実家」に当たるその家だけど、住んでいたことはほとんどなく、向島エリアに引っ越してからはお盆とお正月に何日かいたくらいで。
「あ、実苑おかえり」
「茉莉奈。ただいま帰りました」
僕のことを出迎えてくれたのは、姉の茉莉奈さん。去年の春に親が再婚をした結果、同い年の姉弟という関係になったばかりです。ただ、“さん”とつけると怒られるので、茉莉奈と名前で呼んでいます。
僕は母と一緒に向島エリアに出て来たのですが、緑ヶ丘大学へ進学することは母の再婚より先に決まっていたんです。なので僕は予定通り、大学の近くで1人暮らしをしています。
そんな理由で星港の家にはあまり帰らないのですが、まだ家族になって1年にも満たない父さんと姉さんは良くしてくれますし、母さんも笑顔が増えているので言うことはありません。
「今日は茉莉奈にお土産があるんです」
「えっ、なになにー?」
「これはカーディガンなんですが、ケーブルニットのダッフルコート風になっていて、茉莉奈にもよく似合うと思って持ってきました」
「えー! かわいいー! ……けど、カーデか」
「お気に召しませんでしたか、ごめんなさい」
「ううん、これ自体はかわいいし着たいけど、カーディガンを見るとちょっと嫌な顔を思い出すと言うか。でも、これは肩からかけて結ぶタイプじゃないもんね! ありがと、次出掛けるとき着るよ!」
僕はあまり体が大きな方ではなく、僕より身長の高い女性もたくさんいます。恥ずかしながら、僕の身長は160センチほどでしょうか。
ですが、それが良かったのか男性物でも女性物でも着られる服があるということで、性別を問わずに好きな洋服や小物を選ぶことが出来るようになりました。
そのおかげで茉莉奈と話すようになったと言ってもいいかもしれません。互いの洋服を見せ合ったり、交換してみたり。そんなことをして遊ぶようになっていたんです。
「それと、お土産はもうひとつあって」
「なになにー?」
「えっと、これです」
「わっ、鳥だ!」
「ツバメです。以前僕の部屋に来たとき、作ってほしいと言っていましたよね」
「本当に作ってくれたの!? わっ、軽い!」
「紙粘土で作りました」
紙粘土で作ったツバメのオブジェを渡すと、茉莉奈はぱあっと笑ってどこに飾ろっかなーととても楽しそうにしているので、作ってよかったなあと思います。
僕は部活でよく立体作品を作っているのですが、その延長のような感じで。部活ではもっと大がかりな作業をしたりするのですが、これはあくまでプライベートなものですし、何ヶ月もかけられませんから。
「ねえ実苑、カラスも作れる?」
「カラスですか? 資料さえあれば作れますよ。作りましょうか?」
「いいの!?」
「でも、どうしてカラスなんですか?」
「うん、尊敬する先輩がね、カラスは見た目やちょっとした行動で忌み嫌われるけど、頭がよくて天からの恵みを与えてくれる鳥だって言ってて」
僕が前に住んでた家の近くにあった神社も確かカラスを祀っていたと思います。確かに頭のいい鳥なんですよね、カラスって。神の遣いと呼ばれたりもして。不吉だと言われがちですが。
「それでは、一緒に紙粘土を買いに行きましょう。カラスで余ったら、何か小物でも作りましょう」
「行く行くー。さっそくこのカーデの出番だね」
このカーデに合うコーデしなきゃ、と茉莉奈は部屋へと駆けていきました。さて、僕はと言えばカラスの資料探しのことも考えなければいけませんね。一応カメラを持っていきましょうか。
end.
++++
というワケで、ちらりと言われていた浦和姉弟のお話。ミソノがあまり家に帰らないのでなかなか会うことも少ない義理の姉弟です。
そしてダッフルコート風とは言えカーディガンという物に対するマリンの反応がちょっと芳しくない。どうやらあの顔を思い出すらしい。
マリンとミソノの体格がそんな変わらないってことは、マリンはちっちゃいものクラブにしてるIF1年女子では大きい方なんだろうな。