「朝霞クンが課題のレポートを始めると聞いて」
「邪魔しに来たのか、伏見」
「サポートだよ、いつも脚本でお世話になってるし。アタシも図書館での作業帰りだからね。共にレポートと戦いましょう!」
今日は日曜で、久々にバイトは休みだ。吊り札付けのバイトもいよいよ佳境。昨日もがっつり仕事だった。とは言え学生の本分は一応学業であるワケで。そろそろ課題を始めないとマズい。
伏見が何か俺に用事があるっぽかったから、映研の脚本のことかと思って日程調整をすることに。ただ、空いてるのが見事に日曜しかなかったから今日に至り、伏見がうちに来ている。
「サポートって言うけど、サクラフレーバーのレッドブルなら発売はあとちょっとだぞ」
「レッドブルじゃなくて」
伏見の手には、何やら包みがある。それが俺の目の前に差し出され、受け取ってくださいとまた勢い良く。これがどう課題のサポートになるのかはわからないけど、とりあえず受け取ってみる。
如何せん“書く”作業は久し振りだ。久し振りすぎて気持ちが逸る。左手がうずうずするのを堪え、その包みに興味を向けなくてはいけないのだろう。何て言うか、伏見が何か期待してる顔してるし。
「開ければいいのか」
「開けて開けて」
包装紙を開けると、中からは箱が出てくる。その箱も開ければいいのかと聞こうと思ったけど、伏見がすっごい見てくるから、これを開ければいいのだろう。
「えっと、これは……トリュフか?」
「正解」
最近はバイトばっかしてたから考えてなかったけど、そういや世間的にはバレンタインだったなと。去年は戸田がストレス社会と闘うとか何とかって書いたチョコをくれたのと、カズが定例会でお菓子を配っていたのを覚えている。
脳が糖分を欲したときに食べようと思って箱を閉じる。するとどうだ、伏見がそうじゃないっていう顔をしてる。伏見の顔を見たまま箱を開けると、うんうんと頷く。
「食えばいいのか」
「どうぞ」
「レポート書きながら食おうと思ったのに」
「伏見特製、頑張るあなたを応援するエナジーチョコ的な?」
「作ったのか」
「作りました。目が覚めるとか、興奮するとか血が巡るとかそういう効果のある物を味に支障がない程度にブレンドして――」
つらつらと伏見が何を入れたのかを解説していく。一応、味は割と普通っぽい感じで、香りはちょっとシナモンとかああいう雰囲気か。まあ、マズくはないけど。
クローブ、ジンジャー、ブラックペッパー、シナモンやらそんなような物が入っているのだと、それぞれのスパイスの効能と一緒にプレゼンしている。
確かに伏見は普段から料理をするらしいし、お菓子作りもある程度は出来るのだろう。いつになく自信ありげにチョコの解説をしている様から思うのは、映研の脚本もそれくらい堂々とやれということだ。
「――で、そして目玉は何と言ってもガラナですね! さあ頑張って朝霞クン」
「なあ伏見。そのチョコ、まさか他の男に渡してないだろうな」
「わっ、渡してないよ? ちーには普通のチョコだし、日曜日だから他にあげるつもりも」
「伏見、お前バカだろ。興奮作用があるチョコなんですーとか言いながら男の部屋でそれ食わすか? 効果は眉唾だけど、俺はありがたくプラシーボでレポートを書く。でも他のヤツなら別の意味で食われてるぞ」
「あ、朝霞クン以外の人にはしませんそんなこと!」
「まあ、そうだよな。執筆欲の強い俺に対するレポートのサポートって体だし」
何だこの善意の空回り感。やっぱ伏見ってどっか抜けてると言うか呑気と言うか。そもそも、わざわざチョコに混ぜなくても普通のチョコとレッドブルでよかった話で。
「つか、お前にこそ必要だろこれ。ほら、食え」
「えっ? むぐっ、もごもご」
「聞いてるんだぞ大石から。脚本書いてんだってな。そこ座れ。見てやるから今ここで書け。作業帰りならノートあるだろ、パソコン開け」
「えー!? 鬼ー!」
end.
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鬼の朝霞Pと映研の脚本家さんとの間になかなかフラグが立たない模様……手作りチョコはまじないのような物であるとナノスパではここ数年そんな雰囲気。
ふしみんが怪しいチョコレートを朝霞Pに食べさせたものの、何かもう朝霞Pなのでね……デリカシーの欠片も何もないのはリン様と並ぶかもしれない。
如何せんふしみんは自分からハードモードの方に突っ込んで行ってるからスゴイなあ。朝霞クンでなしに鬼の朝霞Pに惚れてまったんだもんなあ