「ひいっ、ごめんなさい…! わざわざ説明していただくだなんて!」
「いや、わかってるに越したことはないし、認識を共有するのも大事だから。俺たちも確認しておこう」
――というワケで、技術向上対策委員会は今年度のラストイベントとなる春の番組制作会に向けて動き出した。このイベントでは、2年生と1年生の対策委員が一緒に動くことになる。
ここで始まったのが、夏合宿の後から青女のサークルに入った“わかば”に対する簡単なダブルトーク講座。わからないことをわからないと素直に言えるのはわかばの強みかもしれない。
「例えば、アナウンサーさんが1人でやるのはピントーク。ほら、コンビとかトリオを組んでない芸人をピン芸人って言ったりするよな、あんな感じ。それで、アナが2人になるとダブルトーク」
唐突に始まってしまったダブルトーク講座。俺だってそこまで経験はない。年末に菜月先輩と圭斗先輩のダブルトークを回させていただいた程度で、後はファンフェスか。それくらい。
1年からも2年からも熱視線が注がれる異様な状況だ。そもそも、どうして俺がダブルトークとは、という講座の講師をやっているのか。いや、まあ、流れだけど。
「どうしてこのタイミングでダブルトークなのかって言ったら、5月にあるファンタジックフェスタにインターフェイスではDJブースを出してて、その番組が基本ダブルトークだから経験を積んどこうっていう感じ」
「なるほど、せやったんやね」
「いや、お前が感心するなヒロ」
「せやかてボク去年クジであぶれてピントークやってんもん! 経験も何もあらへんかってんよ! しかもファンフェスで一緒の班やったん山口先輩やし向島やからってダブルトーク出来る前提みたいに言われてたまらんかったよ!」
「……という悲劇をなくすためにもやっとこう、みたいなこと」
「わ、わかりました」
一応、今回の講習会の概要や目的なんかを大雑把に確認したところで、改めて会議に入るのだ。いつ、どこで、どのようにやるのか。アナが奇数だった場合の対処などを。
ダブルトークをやるに当たって気を付けるミキサーとしてのあれこれは今話すべきことじゃない。わかばにそれを教えるに越したことはないんだけど。
「あの、野坂先輩ありがとうございました」
「いや、大したことは出来なかったけど」
「もっとラジオのことやミキサーのことを野坂先輩に教えてほしいなあって」
「えっ、てか青女には直クンというイケメンが」
するとどうだ、何かを期待するかのような1年生の目と、明らかに面白がっている2年生の目がこっちを真っ直ぐ突き刺すようじゃないか。これはあれか、初心者講習会とかいうアレに対するフラグ…!?
わかばは俺がいかにすごい人間で、いかにすごいミキサーであるかを初心者なりに語っているのだけど、俺なんかがそのように言われるだなんてありえないし意味がわからない。
「野坂先輩は優しくて思いやりに溢れてて、対策委員のみんなをグッとまとめるリーダーシップもあってミキサーとしての腕もすごくて」
「あの、いや、わかば? 俺はそんなすごい人間じゃ」
「謙虚なところも素敵で」
「もしもーし」
「ゆーたら今のなっちゃん、ノサカが普段菜月先輩と圭斗先輩にしとるコトと変わらんよ」
はっ、もしかしたら俺は菜月先輩や圭斗先輩を困惑させていた可能性が…!? ひいっ、謝っても謝り切れないじゃないか! でも先輩方の素晴らしさならいくらでも語れるしせめて一目でも先輩方にお会いしたい。
「どーやったらノサカがそんな聖人みたいに見えるんか意味わからん。なっちゃん病院行った方がええと思うよ」
end.
++++
1コ上の凄さはそのときになって初めてわかるというのはナノスパではよく言われることですが、崇められる立場にしても同様か……
というワケで久々に対策委員のお話。今ぐらいの時期の対策委員は1・2年生が一緒に動くよ!
ヒロに病院行った方がいいって言われるとか。わかばことなっちゃんも結構なアレである。