「ナ、ナンダッテー!?」
パチパチと、まばらに拍手が飛ぶ。そんなMMPサークル室でのとある午後。
「やァー、いいナンダッテーだった。やっぱ本家は違いヤすわ」
「本当ですね。派生もいくらか聞きましたが、本家が一番ですね」
「どしたんノサカ、最近ずっとテンション低かったんに」
ところで今現在は例によってMMPの会議中なんですけどね。卒業式に向けた色紙を書いている最中なんですけどね。クソっ、どいつもこいつもガチな春か…! 俺なんて永久凍土にいるというのに!
「しかし、ミドリ君はやるね、公開告白だなんて。僕でもなかなかそんな経験はないよ」
「圭斗先輩でもなかなかない経験なのですね」
「本当にあるんだなそんなの。まるで少女マンガだな。うちには想像も出来ないぞ」
「ああ、ノサカが通常運転なのって3年生の先輩がいるからか。納得納得」
そう、本題は卒業式の際に4年生の先輩方に贈る色紙なんですけどね(3年生の先輩方も召集されているのはそういうことであって、菜月先輩と圭斗先輩に久々にお会いできて幸せやら混乱しているやら)。
しかし定例会は何なんだ。口外するなと言われてるけどLと直クンも何だかんだくっついたし、1年生に至ってはミドリがユキに公開告白。ま、春なんてMMPには無縁の季節ではある。
「ミドリのは本当にすごかったっす、ドラマでしたッ!」
「いいモノが見られてよかったね、奈々。する経験も、遭遇する経験も案外ないものだよ」
「はいッ! はー、でもうちも彼氏欲しいっす、告白すべきですかねッ!」
「ん、奈々は想い人がいるのかい?」
「奈々は学部の男子とよくデートしてたりするぞ」
「ちょっ、菜月先輩ッ! 別に隠してないんでいーですけどッ! 大学に入ってから1人にフラれて、今は別の人がいるんですけどー」
奈々の青春恋バナについていけない野暮な2年であった。ちゃんちゃん。さーて色紙色紙。――と中央にドドンと記されたお名前を見ると、何かもう恋愛の象徴みたいなお方じゃないですかあ。
村井サンに関してはおふざけでも許されそうな雰囲気があるけど麻里さんだよなあ……言葉に困るわ、数々の尋問がよみがえるわ、今現在MMPサークル室の空気が“春”真っ盛りとかで何かもう。但し、この“春”は他人の春だけど。
まあ、俺たち2年だって恋愛のれの字もないってワケじゃないんだよな。律は謎だけど、俺もヒロもこーたも一応片想いはしてるワケだし。律は謎だけど。ただ、全員春の気配が遠すぎるんだ!
「ノサカ、お前にそういう気配はないのか」
「あるように見えますか」
「……荒んでるなあ。えっと、何か片想いはしてなかったっけか。その人とはどうなったんだ、進展はあったのか?」
「俺が聞きたいです」
俺が片想いをしているその人? 貴女ですが何か!?
――などとこんな公開告白が出来るはずもなく。そもそも逆ギレはよろしくない。あ、圭斗先輩が哀れみの目を俺に向けていらっしゃる。さすがに圭斗先輩には悟られていますから、そうなりますよねー。
「進展なしか」
「お、想いを大切にあたためているところで……」
「届くといいな、その子に」
「ええ」
「うかうかしてると盗られるぞ」
何の気なしに言いますけど。……まあ、確かにうかうかしてると他の誰かの気配は付きまとうもんなあ……高崎先輩とか高崎先輩とか高崎先輩とか!
あーあ。麻里さんの色紙に「菜月先輩に英才教育を施して差し上げてください」って書いてやろうか。いや、鈍感を呪うんじゃない、俺が頑張らないと。菜月先輩にふさわしい男になるんだ。そしていつか。
「三井の基準で言えばお前は年中春なのか?」
「菜月先輩。申し訳ございませんが、縁起でもない上に心を抉られる単語はNGでお願いします」
「やャー、野坂がナチュラルに三井先輩をディスってヤすわァー」
「仕方ありませんね、失恋の象徴ですし」
「そーいや三井先輩今度どこでフラれとるんやろうね」
end.
++++
久々にノサカをどったんばったんさせた。ノサカは本人にその気はないけどナチュラルに先輩をディスるくらいがちょうどいい。
奈々は結構オープンな感じに青春をしているらしい。2年生にはそりゃなかなかついていけませんな。近頃の若い子は。まったくもう。
いや、もうさ、ノサカは逆切れでもなんでもいいからさっさと言うべきことを言っちまいなさいよ……