最近は、図書館に籠ることが増えた。大学の図書館のこともあれば、大学近くの図書館のこともある。そんでもって星港市の図書館のこともある。今日は緑大の図書館だ。緑大の図書館には、自習用の個室がある。その個室を借り切ってひたすら勉強に次ぐ勉強。
手元に置いておきたい本を探して、それっぽいコーナーへ。足の裏で、ここが図書館であることを改めて思う。これはカーペットと言うのか、絨毯と言うのか。コロコロか掃除機で掃除をするのが適した布地の床。わざとバタバタ歩かない限り、足音は吸収される。
「よし、見つけ――」
一冊の本に手を伸ばした瞬間、手と手がぶつかる。驚いて、別の手の主の方をチラリと見れば。
……見なかったことにしよう。幸い奴の手は引っ込んでいる。隙を見せた方がわりィっつーことだ。目的の本を手にすれば、本棚に用はない。個室に戻るだけだ。
「――ってちょっと待ってよ何かないのねえゆーちん」
「ねえ」
「じゃんけんとかしない? ねえ、ねえってばゆーちん」
相変わらず人をふざけた呼び方しやがって。伊東が俺の事を高ピーって呼ぶのも本来は認めた覚えはねえけどそっちはいつの間にか慣れた。ただ、鳴海が呼ぶこれに関しては慣れることはなかったしめちゃくちゃ腹が立つ。ガン無視決めるだけだ。
俺が普通に歩く歩幅の半分くらいで、ちょこまかちょこまかと人の後にくっついて来やがる。このまま自習室までついて来られでもしたらたまったモンじゃねえ。かと言ってあんま長い間部屋を空けるワケにもいかねえ。そうか、逆に本を譲って振りきればいい。それだ、そうしよう。
「おい鳴海、本はお前にやる。だからついてくんな」
「本はもらうけどついてく。喋りたい」
「俺は用事ねえしここは図書館だ。残念だったな」
「知ってるよゆーちんさっき個室から出て来たの。さ、行こうよ」
チッ、バレてやがったか。めんどくせ〜……ホンットめんどくせ〜…! 今更何だっつーんだ。
真後ろから両の肩に手をやられ、電車ごっこをしているかのように元いた個室まで歩かされる。自習室に入ってしまえば、ただただ本棚が連なるだだっ広い空間からの音はまったくもって遮られる。それは、こちらからの音にしても同様。
「まさか、同じ本に手がかかるとはね〜」
「絶っ……対に! 他には言うなよ」
「その辺は考えとくよ」
「つかお前って福祉系だろ、現場で働くのが第一希望だって言ってなかったか」
「そうだね、第一に介護福祉士、国家試験を控えてるのが社会福祉士」
「そのナリでかよ」
「それは偏見でしょ。でも、俺の取ろうとしてる資格もそっち系の仕事で何かないかなーと思っただけだし、ゆーちんほどガチな用事があるワケじゃないんだけどね」
そう言って鳴海は例の本を俺に差し出す。俺はそれを受け取り、大きく息を吐いた。よりによってコイツに進路希望がバレるとか。いや、冷静に考えれば伊東にバレるよかマシか。伊東にバレた瞬間次の日には周りじゅうが知ることとなってるからな。
「そっちの試験はいつ頃?」
「6月だ。そっちは」
「在学中には受けられないんだよね、試験を受けるにも資格が要るんだよ」
「そうなのか」
「実務経験ってのが必要なんだって。だからまずは就職だよね。働きながらでも福祉とか介護の分野なんてさ、法律が変わるのも早いしどっちにしても日々勉強だよ」
めんどくせえのに捕まったとは思う。ただ、キャリアに関わる試験があるという共通点においては会話が弾む。これもひとつの情報共有。
「だからさゆーちん、これからお茶でも」
「出てけ。俺はこれからここに籠って勉強する」
end.
++++
ナルミーとのあれこれで結局最後まで残っちゃったのが高崎である。他の3人よかやりにく……ゲフンゲフン
ナルミーにはしっかりとした将来の目標と言うか、進路希望があるようです。高崎も一応しっかりと考えてるけど、本人は結構な秘密主義。
高崎ってどうして勉強は外でやるのかしら、というこの文字を打っているときに答えがわかった。家だと寝ちゃうんだ。だから外なんだ。