表示されているのは、知らない電話番号。非通知ではない。無視をしたくてしているワケではないんだけど、8回コールで切れるのを3回繰り返して、現在4回目。どこまで粘るのか、見てみたいという好奇心が勝っている。
まあ、知らない番号からの電話には出ない方が後々面倒なことにはならないだろうし、このまま出なくたって別に全く問題はないんだ。ただ、ガチな間違い電話だったらどうすりゃいいんだとも思うけど。いや、それなら留守電にメッセージ残してくれたって。
相変わらず電話は鳴り続けている。8回コールは5回目に突入している。まあ、間違い電話だったにしてもそろそろ間違いであることに気付かせてやった方がいいかもしれない。緊急連絡かもしれないし。業者だったり詐欺集団だったらどうするとも思うけど。ええい、賭けだ。
「もしもし」
俺が声を発してから5秒ほどの沈黙が流れた。相手がいるんだろうという雰囲気はわかるんだけど、言葉はない。いや、無言電話とかマジかよ。チッ、イタ電なら出るんじゃなかった。
「……もしもし」
『あれだけ鳴らしてたら普通は気付くだろ。さっさと取りやがれですよ、朝霞の分際で確信犯か』
「あ?」
と言うかこの声にこの喋り方、そして俺に対してナチュラルにケンカを売って来るスタンスのコイツは。ははーん、浦和か。でも、何で浦和が俺の連絡先を――……っと、あ、そういやあったな。
記憶はちょっと前にさかのぼる。宇部班が現部長の柳井に引き継がれたのをきっかけに、柳井に反抗して班を飛び出した浦和の延命措置だ。それが、向島インターフェイス放送委員会・定例会への出席に関する引継ぎ。
でもコイツ連絡先交換するかっつー提案には乗って来なかったよな。携帯の上とは言えお前の端末から発せられた電波を受けたくないとか何とかっつって。まあ、俺の連絡先は大方宇部か源から聞いたってトコだな。
「で、お前が俺に何の用だ」
『ラジドラの書き方を教えろですよ』
「は?」
『はーだのほーだのウルサイ! あと舌打ちすんなですよ全部聞こえてるんだっつーの相変わらず柄わりーな恫喝野郎!』
「あ!? お前それが人に物頼む態度か!」
『こっちだって朝霞なんかに頼みたくないっつーの! でもうちの部他にラジドラ書いてた人間いないらしいっつーからイヤイヤ! 仕方なく! 私がつばめ先輩に認めてもらうには出来ることをひとつでも増やさなきゃいけないっつーのはわかるだろーが!』
「……はあっ。チッ」
『ため息吐くなですよ縁起でもない! あとまた舌打ち! うぜー!』
そんなこったろうとは思ったけど。やっぱり、戸田はそう簡単に浦和を受け入れることは出来ない、か。俺がいろいろ考えている後ろでは相変わらず浦和がぎゃんぎゃんと吠えている。つかお前のがうるせー。
旧朝霞班、っつーか戸田と源も生き残るにはギリギリなんだろうけど、浦和は浦和でギリギリのところにいるというのはよくわかる。現部長に反抗した以上、行き先が流刑地しか残っていないことも。
俺はこの1年、やりたいように活動をしてきたつもりだけど、それでも土地の性質や先代の名前を引き摺られた評価というのは少なからずあった。今はもっと強く思う。そんな下らねーことで埋もれる奴がいていいのかって。
「浦和」
『あ!?』
「チッ、てめえ」
『用があるならさっさと言いやがれですよ』
「元はと言えばお前の用事だろ。ま、それはともかくだ。俺とコンタクト取ってるって戸田は知ってんのか?」
『誰も知らねーですよ』
「連絡先はどこから」
『どこでもいーだろ』
「チッ」
『あーもーうるせーですよ、定例会で他校の人づてですよ!』
「ラジドラの書き方だったな。口で言って伝わるモンでもない。いつ、どこで聞きたいか決めとけ」
『今に決まってんだろ。今。アンタん家の近くのカラオケに部屋取ってるから今すぐ531ルームに来いですよ』
「は!? つか何で俺の家の場所知って――」
電話は切れた。ったく、何なんだ。ただ、本気ではあるらしいし、イタズラでもなさそうだ。カラオケルームっていうのがまた、大声を出しても大丈夫そうだし、バラバラに出入りしても問題ないって辺りで計画性を疑わせる。
……よし、久々に本気、出すか。えーっと、冷蔵庫に確かあと1本あったな、レッドブル。あと過去の脚本と筆記用具と――。
end.
++++
マリン的にはかなり不本意だけど、とうとう朝霞Pに頭を下げました。下げ…? うん、まあ、一応下げました。
朝霞Pの口癖じゃないけど、舌打ちってのはかなり印象の悪そうなクセがついちゃってるなあと今更ながらに思う。
マリンが朝霞Pの連絡先を聞いたその他校の人が誰かはまだわかんないけど、連絡先を教えてもらう時はすっごい顔をしてたんだろうなあと思ってみる。でも圭斗さんあたり可能性ありそう(夏合宿で同じ班だったし)