「ヒロ、春からは普通に4年生になるの?」
松江が突然切り出した話は、相手をするべきか無視するべきか。何なの、普通に4年生になるのって。言いたいことはわかんなくもないけどさ、もうちょっとなんかこう……まあ、言葉を選べないのが松江なんだろうけど。
俺は5月から1ヶ月ほど入院して、その後の療養で春学期を捨てた。自分では届けを出さずに授業を捨てたつもりだったんだけど、いつの間にか親が休学届けを代理提出していたらしい。そんなこんなで在学期間が少し足りない。
在学期間が足りないということは、来春で卒業出来なくなったということ。まあ、それは前々からそう言ってあったし、松江もわかっていたはずなんだろうけど。だからってこの質問はないでしょ。
「学年は普通に進級するけど、何か」
「ううん……」
「言いたいことがあるならはっきり言いなよ」
「卒業式、一緒に出たかったなあと思って」
この間、青浪敬愛大学でも例に漏れず卒業式があった。俺も一応サークルとかゼミとかでお世話になった先輩を見送りに、会場に行くだけ行ってはいた。人が多すぎて正直ちょっとしんどかったけど。
ウチの大学では秋の卒業に関しては式なんてないし、まあ、俺はそっちの方が楽でいいとすら思うけど、松江はどうやらめんどくさい方の式で感傷に浸ったりしたいようだ。大きな図体しといて、女々しいなあ。
「心配しなくても見送ってあげるよちゃんと」
「え……」
「正直めんどくさいけど。朝倉はうるさそうだし。でも、松江には世話になってるし、見送ってあげるよ。はい、卒業式の会場には同時に存在出来る出来る」
「ええ……」
パン、と手を打って、この話題を強制終了。本当にめんどくさい。今更何をどう足掻いたって俺の卒業時期が早まるワケでもないのに。それだけ言うなら自分も卒業を半年遅らせるか、って言ったらしようともしないクセに。
別に俺はそれを悲観してるワケじゃない。むしろ勉強出来る期間が延びてラッキーとすら思う。体を壊したおかげで体を気遣うようになったし、体調管理とタスク管理の意味で手帳をつけるようにもなった。悪いことばかりじゃない。
「それともなに、寂しいとか?」
「……そうだね、寂しいね」
「バカじゃないの」
「でも、先輩たちが卒業して、次は自分たちの番で。だけど、ヒロとは一緒に卒業出来ないって思うと、そりゃあ、寂しいよ」
「……バカじゃないの」
松江なんて社会に出たら絶対妙なのに付け込まれるし、そんなに俺と一緒に卒業したいなら就活浪人でもすればいいんだ。俺はさっさと就職決めて、卒業したら働くけど。まあ、今のまま程良く健康ならの話だけど。
入院から半年以上が経った今でもたまに調子の悪い日なんかがあったりするから困るんだ。別に、どうあっても動けなくって、今にも死にそうとかそんな酷さでもないんだけど。ただ、いつ来るかわからない怖さはある。
「卒業なんて最初からわかってるんだから。心の準備なんていくらでも出来るじゃない。事故とかで急にいなくなったならまだしも。それこそ目の前で俺に血を吐かれたんだから今更松江は動じないでしょ」
「ヒロが倒れたのは、言うほど急でもなかったけど……」
「今言ってるのはそういうことじゃないんだけど」
「ごめん」
「今生の別れじゃないんだから、ぴーぴー言うのやめない?」
大体、ちょっと会うのに飛行機に乗らなきゃいけないとかっていう距離でもないんだから。半年のズレがどうかしたの。そんなの、この先何十年も生きれば大した差じゃないし。
「松江、購買でお茶奢りね。ノンカフェインのヤツ」
「ええ……それは、どういう名目なの?」
「俺のご機嫌とり」
end.
++++
長野っち。もにょもにょ言ってるもじゃをちょっとめんどくさいと思いつつも、ナンダカンダでいい友達です。
いつの間にか親御さんが休学届を出してくれてたみたいだけど、半期捨てたくらいじゃ頑張ればまだ普通に卒業出来てそう……まあでも長野っちには勉強する時間が大事だろうからこれはこれで。
そういやもじゃは目の前で長野っちに血を吐かれたんでしたね……そら今更あんま何でも動じないですな