「あー、美味い。やっぱ一仕事終えた後のビールは最高だっていう」
「平日の真っ昼間から飲めるっていうのもいいね」
今までは広々としていた部屋のど真ん中に、こたつ机がやってきた。本当はもう少し早く買う予定だったんだけど、寒いうちに机を買うとこたつ布団も買わなきゃいけなくなるし、ずっとそこに籠ってしまうだろうから。こたつ机がこたつになるのは次の冬から。
その買い物をエイジに付き合ってもらって、組み立ても一緒にやる。今まではお盆に乗せたまま床に置いていた食べ物だって机の上に置ける。これでシャンプー台の一番上を取り外して使っていた簡易台ともおさらばだ。机っていいね。
そもそもどうして今までうちに机がなかったのかと言えば、それはきっとデスクがあったからだと思う。何て言うか、実家の部屋のような感じで、何もかもをデスクで済ませればいいかと。そんな感覚だったんだと思う。机が案外必要になるものだとは思わなかったし。
「これで卓上コンロでも買えば鍋だって出来るし」
「冬になったらやりたいね、闇鍋」
「闇鍋かよ」
「アオと言ってたんだよね、やってみたいねって」
「アオな〜……アイツ案外真顔でぶっ飛んだこと言いやがるっていう」
今は開け放ってあるカーテンは、遮光の物。閉めれば朝が来たのにも気付かないくらいに部屋は真っ暗。授業が始まるようになったら少し開けておいた方がいいとはいろんな人に言われる。ただ、闇鍋をするならもってこいのアイテム。
「でも、買うなら今のうちなのかな」
「っていうのは?」
「お金と時間に少し余裕があるし」
「時間はともかく金はどうした」
「少し日雇いでバイトしてたんだ」
「そうかそうか。お前もついに働いてたか」
朝霞先輩から紹介された吊り札付けのバイトは3月の中頃まで続いた。テストが終わってからはちょくちょく入ってたから、今のところ生活費には若干の余裕がある。ただ、4月になるとそんな時間的余裕もなくなるだろうし、お金はあまり贅沢せずにとっておきたい。
4月からの俺がどれだけ忙しくなるのかと言えば、今年の果林先輩をイメージすればわかりやすくなるだろうとは言われている。同じ学部学科で同じゼミ。そしてサークル方面でも同じ技術向上対策委員のメンバーとして。4月からの俺は今年の果林先輩からバイトの成分を引いたイメージ。
「まあ、コンロとか土鍋買うなら買っとけ。インターフェイスで集まるにしろ何にしろ、お前の部屋は会場になりやすいっていう。ミドリの部屋で今まで通りやれるかっつったらやっぱちょっと気遣うべ」
「だよね」
この1年でミドリとユキちゃんが付き合い始めたり、やっぱり周りでもみんないろいろ動いてるんだなあと思う。俺に起きた変化と言えば、1人暮らしとか、絶対にないと思っていたエイジと仲良くなったことが挙げられるかもしれない。
「でもさ、仮にだよ?」
「ああ」
「仮に俺に彼女的なものが出来たとしても、気は遣ってもらえないんでしょ?」
「だろうな」
「何でだろう」
「まあ、お前に彼女的なモンが出来るかっつったら当分ねーべ。1限間に合うように起こせだの今日の飯は何だとかって俺に言って来る時点で出来るかそんなモン」
嫌な顔をしつつ面倒を見てくれるからエイジはエイジなんだ。何だかんだで2年生になっても頼り切りになりそうな予感。冬の間の利害の一致でもなければほぼほぼ俺のワガママなんだろうけど。
それでも最近は言わなくても通じるようになってきてる辺り、恋愛に興味はあっても彼女はそれほどでも、という部分に繋がってるんだろう。とか言ったらエイジはきっと「俺の所為にすんなっていう」って言うんだろうなあ。
end.
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毎年この時期になったら「ありがとう、そしてさようなら仲良しタカエイ!」とか言ってますが、今年も例に漏れずありがとうタカエイ回。また来年6月頃までさよなら!
例の吊り札付けのアルバイト。タカちゃんは吊り札の段階までだけどちょいちょい入っていたらしい(なので肉体労働への白羽の矢は立たなかったようだ)。
多分もうしばらくエイジが嫁みたいな状態は続きそうなタカちゃんである。ほっとくと生活がとにかく残念になるんだよなあ……来年度もきっと残念だ。