星港市内中心地にある広場では、テントがいくつも並んで祭りの様相。広場の端と端にステージは2カ所。ファンタジックフェスタというイベント。このイベントに来たのはいろいろな興味が重なった結果だ。
「お、いるいる。おーい、水鈴」
「あーッ! 雄平! それに裕貴も! どーしたの!?」
「冷やかしだ」
声をかけた先には俺たちの同期、岡島水鈴。星ヶ丘大学放送部でアナウンサーとして活動した後、現在は自分から応募をしたりしてステージMCの活動を続けている。何でもその方向で進路希望も固めて、今日も応募してMCをやっているとのこと。
「あっ、ひっど! 雄平ひっど!」
「これは雄平なりの照れ隠しでだな」
クッソ、裕貴め。テキトー言いやがって。この萩裕貴は、見た目がいかにもなクソエリートで部活に関することはとにかく完璧な男だ。前監査として厳しく目を光らせていた。ただ、部活に関わらなきゃどっか抜けてる男だ。
俺は、代々伝わる流刑地の前班長。現在では朝霞班と名を変えたその班を束ねていた。裕貴は元々誰に対しても平等に接していたけど、部活での裕貴しか知らない奴に「萩と越谷はプライベートで出かける仲だ」と言えば10人中10人は驚くだろう。
「なーんだ雄平、水鈴さんに会いたくて会いたくて仕方なかったのかーそれならしょうがないなー」
「それはない」
「そう冷たくすることもないだろう、雄平」
「そうだそうだ、裕貴の言う通りッ!」
「俺は事実を言ってるだけだ。お前らが話をめんどくさくするんだろ。特に裕貴」
好きだの嫌いだのというネタ自体はよくあるヤツだから、水鈴のそれはちょっと過剰だけどまだいい。ただ、問題はその対応がネタなのかガチなのかイマイチよくわからない裕貴なんだ。ちなみに俺は水鈴を女として意識したことはない。
「そうだ。水鈴、妹が向島の放送部に入ったと聞いたが」
「あッ、情報が早いね裕貴。って雄平が言ったんでしょ? そうそう、そうなんだってー。ミキサーの練習始めてるよ」
「インターフェイスでもブースを出しているようだけど、今日は来てるのか? 妹の顔を見てみたい。あわよくば番組など」
「いや、IFのブースで番組をやるのは2・3年だ」
「さすが雄平物知り〜」
「どっちかっつーと俺は朝霞を冷やかしに来た。水鈴、間違ってもお前じゃねーぞ」
「俺も部活で急遽出すことになったというステージを見るのが目的で、水鈴のことは正直ついでだった」
「ちょっとーッ! 雄平も裕貴もヒドーいッ!」
ヒドいヒドいと俺の腕をバシバシ叩く音が響く。つか水鈴のヤツ、加減もクソもない。裕貴も同じ風に殴れと抗議したけど、裕貴を同じ力で叩いたら折れそうだから2人分の鬱憤を受け止めろと言う。横柄にも程がある。
叩くのが止んだと思ったら、ヒドいヒドいと言いながら今度は腕を掴んでブンブンと振り回し始める。俺の右腕はもうめちゃくちゃだ。利き腕じゃなくて助かった。水鈴がそれを考慮しているはずもなく、運が良かったんだろう。
「雄平、何やらお前をじっと見ている影があるぞ」
「は!?」
裕貴の声に、不穏な視線の元を探す。嫌な予感しかしない。あ、あの2つの影は。
「ちょっ、マジか! おい、水鈴今すぐやめろ」
「やめなーいッ! 雄平が「水鈴さんごめんなさい本当は大好きです、午後のステージは水鈴だけを見つめてます」って謝るまでやーめなーいッ!」
「何つー謝り方を要求してんだお前は! あ〜、あ〜っ、違うんだこれはっ…! あー、行かれたー! あの顔ぜってー勘違いしてる、もしくは歪曲したヤツだー!」
「どうした雄平」
「終わった…! インターフェイス生命が絶たれた」
視線の正体を確認すると、そこにあったのは悪い顔。それがこれから今見た物をどう処理するのかを考えるだけで午後からのステージだの何だのは頭に入ってこなくなる。マー、お麻里樣を止めてくれ!
「水鈴、お前いい加減手ぇ放せ」
「あっ、ホントだもうこんな時間ッ! 次の準備しなきゃッ! じゃーねーッ!」
水鈴がバタバタと駆けていくと、嵐が過ぎ去った後のよう。俺のメンタルはもうかちゃかちゃのぐっちゃぐちゃに荒れ放題。ステージがどうした。朝霞がどうした。そんなことはもうどうでもよくなるくらいに放心していた。
「……裕貴、俺もう疲れた」
「傷心だな。何か甘い物でも食べて気を取り直せ。奢るぞ」
「……じゃあ、ソフトクリーム」
end.
++++
放送系4年生で一番乗りするのがまさか星ヶ丘のお三方とは思わなかったという罠。ただ、ムラマリさんの影がチラリ。こっしーさん生きて。
今回の話は水鈴無双という感じですが、これが後々どうなってくるのかは来年の今頃わかってるといいなあ。
萩さんがこっしーさんと水鈴さんのあれこれに見事に油を注いでる感。部活の現場じゃなきゃ抜けてる兄さんだから……