「ファンフェスの件に関しては、俺が悪かった」
シンと静まりかえった部室でそう切り出したのは、朝霞。ファンタジックフェスタが終わり、朝霞に対する謹慎処分の解ける日。律儀にも、監査の私に対して挨拶を……それと、謝罪を。
確かに朝霞は先輩に対する態度はしっかりしていた方だし、私怨で嫌がらせをしてくる日高以外の幹部に対して反抗的ではない。ただ、急に呼び出されて開口一番に頭を下げられると、私もどうしていいかわからなくて。
「実際インターフェイスで出てみてわかった。どっちもちゃんとやろうとするなら両立は厳しい」
「いえ、私も一言確認を取るべきだったわ。ごめんなさい」
「不可抗力だったんだろ。鳴尾浜から聞いて、大体の事情は察した」
「ところで、見てたんでしょう? 率直に、どうだった?」
向島インターフェイス放送委員会がブース出展していたように、星ヶ丘大学の放送部でもファンタジックフェスタのステージで参加していた。それは、年度始めから決まっていたことではなく、急遽捻じ込まれた出展。
そのステージに対しては、身内とは言え状況で言えば第三者である朝霞に聞くのがいい。インターフェイスの活動の合間に、こちらを見ているのは見えたから。ステージに対する評価に身内も何も関係ない、鬼の目で。
「……ステージの上はともかく、下はとても見られたモンじゃなかった。まあ、下なんて見るのはステージをかじってる奴くらいだろうけどな」
「そうね」
「Pの独断にアナウンサーが振り回されて、それにDとミキが翻弄されて。それにまたアナが振り回されて、壇上に上がってくれてる一般の人が戸惑って。事故にならなかったのが不思議なくらいだ。全部見たわけじゃないけど、率直に思ったのがそれだ」
「つまり準備不足に、意志の疎通がなってない。そういうことね」
「俺なら……いや、朝霞班ならやれた。ただし、インターフェイスで出ていなければの話だ。今になって思えば、俺は頭に血が上ってた。宇部、悪かった」
急に、それも丸の池や大学祭のようにはじめから“あるもの”として念頭に置かれているステージならともかく、急に割って入ってきたそれに対するモチベーションの問題もあった。
本番まで1ヶ月もない状況で、いきなりステージをやれと言われて。しかも、やらなければ夏の枠に響くと脅されれば嫌々でもやるしかないのよ。嫌々やるなら、やらないほうがいいわ。あくまで、私個人の思いでは。
「いえ、いいのよ本当にもう。それより、手はもう大丈夫なの」
「ああ」
包帯の取れた左手よりも痛々しいのは、先から言葉を紡いでいる唇。いくらか切れて、赤く線が入っている。憶測だけで語ることはしたくないのだけど、朝霞なら悔しさで唇が切れるくらい噛みしめたっておかしくはないから。
「宇部、夏のことだけど」
夏と言えば、放送部の活動で一番大きな行事である丸の池ステージのこと。それ以外にはない。朝霞が今から夏の何を心配するのか。それは、また不当な理由で私に枠を奪われないか、しかないわよね。
「貴方たちの死に場所くらい、作るわよ」
「……そうか」
「洋平と戸田さんには言ったけど、班の実力の底上げは最低条件よ。夏こそは、という思いは私も同じ。夏こそは、ちゃんと実力だけで枠を決めさせてもらうわ」
「実力、な。信じていいんだな」
「私を誰だと思ってるの。生半可な覚悟でここにいるわけじゃないのよ」
「やれるんだな、俺たちもステージを」
「ええ」
くすぶって、インプットに徹した春を越えて。ようやくスタートラインに復帰出来た朝霞が夏に何を見せてくれるのか、それが今から楽しみで。この環境で、こうまで腐らずにステージに向き合えるのは、単純に強み。
「処分は解けたわ。思う存分やりなさい」
end.
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謹慎処分を食らっていた朝霞Pが部活に帰ってきました。まず宇部Pに顔を見せて、いろいろ話すことを話す辺りは律儀なのかもしれない。
ファンフェスのステージの件は宇部Pにも恐らく不本意だったんだろうけど、それがこれからどうなってくるか。
日高と宇部P以外の幹部ってどんな感じの人たちなんだろうか。実は他にどんな役職の幹部がいてーなどとは全然考えてなかったりする。考えなければ。