「ぎにゃああああ」
「深谷さん、これは画像ですし、ヘビではなく植物です」
またやってる。これが実苑とマミさんのいつものやり取り。
淡々と話すこのちっこい男子、浦和実苑はオカルトとかに興味がある1年で、アタシの同期。得意なのは立体作品で、石膏とか紙粘土、針金なんかをいつもぐにゃぐにゃこねこねと扱っている。ちなみにヘビが好き。
ひいいと部室の隅っこで震えてるのが、深谷真実さん。ネコ好きが高じて仲良くなった2年生の先輩。得意なのは風景画。画材は多岐に富んで、油絵や水彩、色鉛筆などをそのときの気分で変えている。ちなみにヘビが大嫌い。
「深谷と浦和はまたやってるのか」
「1日1回は事故ってるのに、マミさん慣れませんよね」
「怖いものは怖いんですぅっ! 浦和くん本当に植物!?」
「植物です」
「うう……」
やっと顔を上げたマミさんは本当に涙目なものだから。実苑が出してる画像のどこに怖がる要素があるのかと思えば、何かこう、ぐにゃぐにゃしたよくわからない被写体なんだと思う。植物とは言うけど、確かにちょっとヘビっぽい。
「僕、最近食虫植物やグロテスクな植物に興味があって、調べてるんです」
「へー。実苑、それってアマゾンとか熱帯雨林に生えるヤツ?」
「そうですね。イメージとしては原生林とか熱帯とか、そういう感じでしょうか」
「そういうジャングルに入る企画のテレビってさ、大体ヘビを首に巻いてない?」
「そうですね」
「いやああああ」
「話だけだぞ深谷!」
きれいなお花の画像で心を癒したいと呟いて、マミさんは部のパソコンで画像検索を始めてしまった。画面に咲くのはきれいな花。でも、そのうち猫動画の再生が始まる方に賭けよう。
実苑は図書館で借りてきたという植物図鑑を開いて、楽しそうに話を続けている。こういう植物をモチーフに幻想的な世界観に棲む獣を造形出来れば楽しそうだと。その話は聞き捨てならない。ゲームとかアニメの世界観でも十分通用するし!
「実苑って、ドラゴンとか作らせても上手そうだし」
「ニュアンスとしては、ドラゴンより龍の方が好みですね」
「あー、何となくわかる」
「そんなわけで今は植物を調べているのですが、図鑑で見るだけではやっぱり実際に見るのには敵いませんし、なかなか難しいですね」
「アマゾンのドキュメントとかは? 写真よかマシっしょ。図書館にDVDとかない?」
「それは盲点でした。唯香さん、ヒントをありがとうございます」
「浦和くん、植物園に見に行く手もあるよ」
「植物園ですか?」
画像検索をしていたマミさんは、一旦その手を止めて植物園のサイトを開く。大学進学を機に向島に出てきたばかりのアタシと実苑は、そんな施設があるのかと画面を覗き込む。
「食虫植物が展示されてるかどうかはわからないけど、実際に植物を見てみるならこういうところに行ってみるのがいいと思うんだ」
「そうですね。きっと珍しい植物もあると思います」
「アタシもちょっと興味ある」
「じゃあ、土曜日に一緒に行ってみない?」
「いいですよ」
「どうしたんですかマミさん、やけに積極的ですけど」
「友達がその日に植物園でイベントやるからよかったら見に来てって連絡くれたんだけど、1人じゃ行きにくくて」
「この貸しは高いですよマミさん」
降って湧いた機会だ。外から刺激を受ければ創作意欲も湧くかもしれない。植物のカメラ撮影は可能だろうか。ちょっとサイトで調べてみるか。もしオッケーだったらアタシも素材を集めるチャンスだし、張り切るんだけど。
end.
++++
マミソノのかわいさに気付き始めたエコさんである。CPにならない男女コンビ、女先輩男後輩のうまさである。
ミソノって下の名前で呼んでほしい派だけど、先輩たちは名字で呼んでるのね。よく考えたら何でだろう。美和さんは何となくわかるけど。
どうやらマミさんには植物園でイベントをやるような友達がいるらしい。井戸からヘビがうじゃうじゃ湧いて来るホラー映画の話もいつかやりたい。