「糸魚川呉服店でーす。衣装配りまーす」
さとちゃんの声に、さっそくわーいと1年生が列を作る。1年生はみんな同じ森の妖精がコンセプトの衣装だけど、それでも微妙に人によってスカート丈とか裾のデザインなんかを変えてあるみたい。
サドニナの衣装は、スカートが幾重にも重なってふんわりしたシルエット。アイドルが着てるみたいなあんなイメージの。ユキちゃんのはスカート丈が長めで、軽く刺繍が入ってる。ミラのは基本の形。サドニナとユキちゃんは注文が多かったみたい。
「紗希せんぱーい、どうですかー?」
「うふふ、みんなよく似合ってる」
「やったー! サドニナが1番かわいいって!」
「そんなこと言ってないでしょ!」
次は2・3年生の衣装が配られる。スーツケースに1着1着丁寧に仕舞われたそれが表に出てくると、やっぱりみんな感動はひとしお。作ってるところは見てたし、完成してからも試着したけど改めて配られるとね。
さとちゃんは去年見舞われたトラブルから学んだのか、衣装の保管方法を変えることにしたそう。それまでは完成した衣装をサークル室の壁にかけてたりしたんだけど、それじゃ汚れたり破けたりするリスクがあるからって。
去年、さとちゃんが作ってくれた衣装が台無しになったときは、本当に見ていられなくって。衣装はまた作ればいいってさとちゃんは気丈に振る舞おうとしてたけど、一連の出来事はさとちゃんの心に傷を残している。アタシは絶対にあの人を許さない。
「紗希先輩、着た感はどうですか?」
「うん、ばっちり」
「よかったー」
「さとちゃーん、パーツが引っかかっちゃったー!」
「ヒビキ先輩そのまま動かないでくださいね、今行きまーす!」
「さとちゃんも着替えなきゃ。ヒビキの方はアタシが行くし。ほらヒビキー、あんまりさとちゃん困らせないのー」
「さぁ〜きぃ〜、早く〜」
着替えてるさとちゃんとそれを囲む2年生が微笑ましい。2年生の3人は本当に仲良しだし、助け合って、支え合ってる感じが強い。Kちゃんと直クンがいたから今のさとちゃんは元気でいられてるのかもしれない。
「取れたよヒビキ」
「ありがと〜!」
「ヒビキ先輩、大丈夫ですか?」
「あっ、さとちゃん着替えた?」
「あー、さとちゃんいい! シンプルなのが逆にいい! これ、コサージュ? かわいー」
「このコサージュは2年生でお揃いなんです」
「ホントだー! いいなー、えっ、作ったの?」
「作りました」
ヒビキの衣装は結構派手でしっかりと目を引くし、Kちゃんの衣装はキリッとしたブルーが清流の妖精のイメージとは言っていたけど、さとちゃん本人の衣装は先2人と比較するとシンプル。優しい印象のあるパステルグリーン。
さとちゃんの素朴さが上手く出ている衣装だけど、決して手は抜いてない。むしろ、シンプルだからこそ誤魔化しが利かない。各人へのイメージやそれぞれの希望をすとんと衣装に落とし込むのはさとちゃんの技術で、優しさだと思う。
「植物園と言えばさとかーさんの本領発揮だからね」
「ヒビキ先輩おかーさんって言わないでください」
「さとかーさん」
「さとかーさん」
「サドニナもユキちゃんもやめてー!」
「でも、実際子供に一番ウケるのってさとちゃんだもんね。技術どうこうじゃなくて雰囲気だよね」
「もー、紗希先輩までー」
遠目には、着ぐるみに着替えて臨戦態勢に入った直クン。頭をかぶれば完全に誰だかわからなくなる。隅っこに丁寧に畳まれた服の上には、白地のコサージュ。
「さとちゃんありがとう」
「いえ、そんな」
「ステージ、頑張ろうね」
end.
++++
個人的には早くダークサイド紗希ちゃんに降臨していただきたいのですが、きっとまだ先だろうな!
青女のあの頃話に関しては2〜3年かけて少しずつ表沙汰にしていきたいと思いつつ、どこまでやれるかなあ、UHBC然りで。
1年生にもすでにさとかーさんと呼ばれ定着した不本意な愛称……でも包容力があるとか癒しと言われるのは嬉しい様子。