口にタオルを当てて、少しばかりの咳払いを。まだ本調子と言える状態にないのは明らかな菜月先輩と、来る明日に向けた話し合い。今この状況では、1分1秒でも惜しい。重なった奇跡を最大限生かせるように働くだけだ。
 金曜日3限は課題で終わる。普段なら、わからん教えろとグズるヒロを見守りつつ待って一緒にサークルに行くけど、今日はそれどころじゃないのをヒロもわかっている。だから「課題はボク自分で頑張るからノサカ行ってええよ」と後押しをもらった。いつもこうならどれだけいいことか。
 そもそも、昨日の時点で初心者講習会まであと2日。そんな状態でプロ講師の人にドタキャンされ、絶望に暮れていた俺たちに射し込んだ一筋の光。菜月先輩が講師を引き受けてくださったという奇跡。風は吹いている。