「おはよーございます」
「ヒロが時間前に来るなんてどうしたんだ、珍しい」
「ボクはノサカと違うんで」
「2年生はりっちゃん以外大なり小なりの遅刻魔じゃないか」
向島大学のオープンキャンパスに向けた特別サークルの日。集合時刻直前に、ふらふらとヒロがやってくる。2年生の遅刻癖について菜月さんが呆れているけど、今にしてもまだりっちゃんしかいないのだから当然だろう。
何でも、この日はサークルの前に対策委員の会議が行われていたらしく、対策委員の野坂とヒロはダブルヘッダーになるけどそれくらいの方がいいだろう、と強行させてもらった――のはいいんだけど、一緒にいたはずの野坂はどうしたんだ。
「ヒロ、野坂はどうした? 午前中は対策で一緒だったんだろ?」
「ノサカ変態なんですよ」
「は?」
「対策の会議終わってサークルまで4時間あったんですよ。ボクは買い物しようと思って星港をふらふらしとったんですけど、ノサカは基本情報の勉強するから先に大学行くとかって言ってボクのコト置いてったんですよ」
さらにヒロが語るところによれば、残りの夏休みを野坂は今まで対策委員の仕事に追われて出来なかった勉強に充てるらしい。夏合宿が終われば対策委員の仕事は実質終了とは言え、自由になった瞬間のこの二人の対比は素晴らしい。
「せっかく休みなんに勉強するとかホンマノサカ変態ですよ。いつも目死んどるんに勉強するって言っとる時はすごいキラキラしとってキモいですし」
「さすがヘンクツ理系男だな、休みにまで勉強するとか」
「ホンマですよね菜月先輩」
きっと野坂は今頃大学の図書館か情報知能センターで時間も忘れて勉強をしているのだろう。菜月さんの言う「偏屈理系男」たるには日々勉学に励まなくてはならないのかもしれない。
だけど、もうすぐサークル開始時刻である事実は覆らない。どっちにしろ大学の敷地内にいる可能性が高いのであれば、電話なりメールなりして時間を意識させてやらなくてはならないのだけど。
「ヒロ、野坂に電話してみてくれないか」
「ノサカケータイ死んどるんでムリです」
「また充電してないのか、いつまで経っても学習しない男だな」
「ホンマですよね菜月先輩」
「午前中の対策の会議には時間通り来たのか?」
「30分遅れて来ましたね」
「やっぱりと言うか、30分なら可愛いと言うか」
そろそろノサカ被害者の会を立ち上げようかな、と菜月さんが呟けば、ヒロもそれに乗じて盛り上がるのだ。きっと対策委員はみんな乗ってくるだろうと。
「でも菜月さん、携帯が死んでるなら呼びに行かないと腹が減るまで時間を意識しないんじゃないのか野坂は」
「理系棟にいる可能性がある以上、文系のうちに言われてもどうしようもないけどな。圭斗とヒロで何とかしてくれ」
「じゃあヒロ、野坂を呼んできてくれないか」
「何でボクが行かんとアカンのですか!」
そしてヒロは菜月さんにこう言うのだ。ノサカ被害者の会、ボク副会長になりますよと。ただ、ヒロの場合は野坂から受けた被害よりも恩恵の方が多いような気がしないでもないけれど。
「どっちにしても時間単位の遅刻なんだからノサカはほっとけ。それにヒロ、ノサカが勉強した分試験の時期にラクとなると思えば許せるだろ」
「あ、ホンマですね。ノサカに教えてもらわんとボクが困ります」
「菜月さん、ヒロに悪知恵を与えない方がいいと思うけど」
end.
++++
ノサカこそヒロ被害者の会を設立しそうな勢いなんだけど、ノサヒロはどっちもどっちなんだろうな。
勉強してるときのノサカはこれでもかと言うほどイキイキしてるよ! 本当に時間も忘れてやってそうなのがノサカらしさかもしれない。
そして、ヒロがとりあえず菜月さんの言うことに同意しとけみたいな雰囲気。ホンマですよね菜月先輩。