「よし、あと3枚っと」
「あと3枚もあるんですか!? この調子だと私が今日コピー出来ないじゃないですか野坂さん!」
「諦めろ、こーた」
MDデッキがジャコン、とディスクを吐き出した。そしてまたすぐ新しいディスクを挿入してやる。もう1台のMDデッキに入っているのはコピー元のマスター。中身は、夏合宿の番組だ。
夏合宿の番組はMDに録音している。それを人数分ダビングして、班員に配るまでが班長の仕事。こーたは班長のツカサから頼まれて2班の番組をダビングしに来たところに先客として俺がいたようだ。
「圭斗先輩の番組をあと3回拝聴するんだな」
「あの大いなるネタ番組をですか……」
「それこそお前の言うところのイケメン詐欺だけど、圭斗先輩だから許されるのは仕様な」
とは言え1回の番組が45分。それがあと3回となると準備時間も含めると2時間半ほどにはなるだろう。それだけの間こーたは待ちぼうけを食らうのだから、今日中にダビングを終えるのは無理だと諦めたようだった。
そして、待っている間は俺も暇なのだ。せっかく2人いるんだから、と引っ張り出すのは圭斗先輩が持ってきた私物のスーパーファミコン。ちょっとした時間潰しには持ってこいだ。
「そう言えば、土田さんはもうダビングを済ませてしまったんですかね」
「4班は果林がダビングしてたから律に仕事は回ってないと思う」
「ああなるほど、果林はある程度機材触れるんですね」
MDのダビングが基本的に班長の仕事であるとは言え、アナウンサーやプロデューサーだとダビングの仕方がわからないことも多い。果林のようにダビングの仕方をわかってるアナの方が稀なくらいだ(さすが緑ヶ丘だ)。
班長がアナやPである場合、同じ班のミキサーにその仕事が回るのは致し方ないこと。こーたがまさにそのパターン。俺はミキサーだからダビングも自分でやるんだけど、ヒロは「直クンにやってもらわな配れんよ」などと悲鳴を上げていた。
まあ、直クンには正直申し訳ないんだけど、ここで「ボクMDのダビングの仕方わからんからノサカボクの班のもやっといて」などと言われる可能性だってゼロではなかったんだ。本当に直クンがイケメンでよかった。
「そう考えると土田さんの星巡りは素晴らしいですね」
「でも律はこういう作業自体は嫌いじゃないだろ。口ではめんどいスわァーとか言うけど仕事は案外丁寧だし」
「先輩方に「漢」と書いて男と呼ばれる由縁ですかね」
テレビからは、爆弾の爆発音がしきりに響いている。スピーカーからは、圭斗先輩のパート。収録した番組は、あまり進んで聞きたいとは思わない。でもあと3回あるんだ。
「野坂さん、モニター用紙ではどのような評価でした?」
「4年生と高崎先輩が鬼のようだった」
「ですよねー」
「でも、自分でも知らないようなミキサーとしての長所みたいなところを突いてくれるのもその方々だったなと」
基本的に匿名で書くモニター用紙に敢えて記名することの意味だ。発言に対する責任のような物が見て取れる。記名してあったのは4年生の先輩方と高崎先輩に伊東先輩、それに菜月先輩だ。
最低でもあと3回はこの番組を聞かなくてはいけない。爆音をBGMに、先輩方に指摘をいただいたところが長所も短所もひっくるめてぐるぐる回り始める。
「あ、野坂さん死にましたよ」
「ちょっお前いつの間に!」
「ボーッとしてるからですよ。圭斗先輩の番組をありがたく拝聴しててください」
end.
++++
ボンバーマンwww
夏合宿後の班長のお仕事。ダビングしたディスクは定例会や対策委員の会議で各大学へ分配されるよ!
と言うかヒロな……ヒロならノサカにダビングを押しつける可能性が本当にゼロではなかっただけに、直クンがイケメンでよかったなノサカ!