ざあざあと雨が降りつけて、夜でもないのに空が暗い。せっかく夏の間は1日2回だって3回だって洗濯をしてたのに、また洗濯物が干せなくなるなという憂鬱が顔を出す。
ここはマンションの6階だから駐車場が水浸しになろうと床下浸水がどうのという事態になっても安心なのだけど、そうなると、それを口実に外に出なくなる奴がいるんだ。
「カーズー、今日のご飯なーにー」
「お前な、週間予報見てうちに来るのやめろ」
「だって雨降ると外に出れないじゃん、だからあらかじめ出とくの」
「晴れてたってお前が外に出てたことがあるか」
我が恋人サマは晴れようが雨だろうが引きこもりライフを謳歌している。最近では天気予報を見て傘のマークが見えるようであればうちに来るのだから。傘マークだけじゃない。大気の状態が不安定というのもキーワード。
実際、慧梨夏の服やその他生活に必要な物は俺の部屋にも大体揃っている。と言うかゲームとパソコンさえあれば何時間でも何日でも潰してしまうのが慧梨夏だ。放っておいても害はない。むしろ放っておかないと何を言われるか。
とは言え雨が降るから外に出ないというのはどうなんだ。俺の足はバイクだからともかくお前は車だろ、と言いたくなる。1日で1ヶ月分の雨が降るとかじゃないんだから。いや、それもこの異常気象じゃ可能性もゼロじゃない、か。
「でも飯なー、そろそろ材料も買いに行かないと」
「はい、車の鍵」
「だからなあ」
「これはペーパードライバーのブランクを少しでも無くそうとしている彼女の思いやりです」
「よし、ピザにしよう」
「えっ、急にどうしたの」
そうと決まれば郵便受けから最新のチラシを掘り起こす。そして一緒に眺めて夢気分だ。天気が悪くて気分も晴れないから、たまの贅沢で気分を上げないと。
「さすがにこの天気だと高ピーも車でしょ」
「ペーパードライバーのブランク! てかこの天気に原付とか勇者でしょ」
きゃっきゃと笑う慧梨夏の語尾にはダブリューが3つほど浮いている。いや、うちへの配達に高ピーが来るって確定してるワケじゃないんだけど。高ピーのバイト先もきっと今日は繁盛してるだろうから。
こう言うとピザ屋バイトの高ピーはふざけんなと言いそうな物だけど、高ピーならそういう店だからしょうがないと諦めてくれているはずだ。イベントの日や荒天時は繁盛するってわかってるはずだし。
「そうとなったらピザデリーに電話しよう」
「あ、デザートピザもつけてね」
「アップルパイな」
「あーでもこの季節だしパンプキンパイも捨て難いなー、期間限定だよ?」
「却下、大却下だ。俺がカボチャ嫌いなの知ってて言ってるとか嫌がらせだろ」
「あ、一瞬素で忘れてた」
そんな話をしてたら急にお菓子が作りたくなって、材料は揃っているかと台所を除く。慧梨夏が電話をしている声を背に、ピザを待つ間はマフィン作りの下拵えをしようと心に留める。
「慧梨夏、マフィン作ったら食うか?」
「えっ、ピザあるのに? でも食べる!」
「じゃあピザ待ってる間暇だし作るわ。この雨だったら結構待つだろうし」
「それならカズにアップルパイ作ってもらって、デザートピザはやめとくんだった」
「いや、アップルパイ作る材料はないな残念ながら」
「はい、車の鍵」
「だからなあ。この悪天候にペーパードライバー放り出して、お前は俺を殺す気か」
相変わらず雨は絶え間なく降りしきる。洗濯物は乾かないし買い物にだって行く気にならない。それでもどん底にまで落ち切らないのはきっと、何だかんだ理由を付けて外に出たがらない彼女のおかげなのかもしれない。
end.
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バカップルは雨が降ると引きこもるよ! 最近は雨が多いのでずっと部屋でいちゃこいてんだろうなあ……
そして天気がよっぽどヒドいといっちーも買い物を面倒がって贅沢をしようとするので高崎乙。
どうして急にお菓子作りがやりたくなったんでしょうね、その辺いっちーのよくわからないところです。しかも材料あるんだもんなあ。