「旅に出るのでしばらくバイト休みます。追伸:リンへ 留守の間リーダーの仕事頼む ハルヤマ」
そんな張り紙がホワイトボードに垂れ下がり、冷房の風を受けてヒラヒラと泳いでいる。春山さんがいないとなると、誰がA番に入るというのだ。ご丁寧にも不在の間のバイトリーダー代行に指名されて、どうしろと。
そもそも、今日だってA番に春山さんの名前があったはずで、それを放り出してどこへ旅に出たと言うのだ。課題だの履修登録だのでそろそろ人も増え始める時期だろうに、1人で回すのは少々ツラいものがあるぞ。
「おはようございまーす」
「む」
紅茶を淹れながらいろいろなことを考えていると、事務所のドアが開く。やってきたのはここのバイトの1年だ。シフト表を見る限り奴の名前はなかったから、きっと春山さんのピンチヒッターだろう。
「川北、春山さんと代わらされたか?」
「あ、そうなんです。昨日急にメールで代わってくれって言われて。林原さんがいるってことは、俺はA番に入ればいいんですね」
「わかっているようだな」
オレがほぼB番オンリーのシフトになっているというのはこの施設のバイトの間では暗黙の了解だった。実質B番の責任者のような扱いをされているのがまた何とも言えん事象ではあるが。
施設開放までにはまだもう少し時間がある。クセでつい多めに沸かしてしまった湯を川北にも勧めると、奴はティーバッグのほうじ茶を淹れた。事務所にはほうじ茶の香ばしい匂いが広がる。
「でも、春山さんどうしたんですか?」
「知らん。旅に出るとしか残されとらんからな」
相変わらずヒラヒラと泳ぐ紙を奴にも指し示すと、「あー」と何かを納得し、思い出しているようだった。
「ひょっとして春山さん、国産ロケットの打ち上げを見に行ったんじゃないですかね。こないだシフト一緒になったとき、延期になったから機会が合えば見に行くとか何とかって言ってた気がします」
「ああ、そう言えば土曜日だったか」
宇宙開発の分野に興味関心のある春山さんであれば、国産ロケットの打ち上げというイベントはぜひその目に焼き付けたいと思っても不思議ではない。これは間違いなく飛んだな。
受付席のイスの背もたれには、春山さんのスタッフジャンパーがかけられている。どうして彼女のそれだとわかるのかと言えば、右腕に青い腕章が通されているからだ。
川北はご丁寧にもそれをハンガーにかけて春山さんのロッカーへとしまった。しばらくは休むと言うのだから、片付けておくくらいはいいだろう。
と言うか、最短で何日後に戻るかくらいは残していただきたかった物だ。あの人がロケットだけで旅を終えるワケがない。そのままヒッチハイクでも始めそうな人なのに。
「待てよ、繁忙期に入っても春山さんが不在の場合、オレがA番に入るということも有り得るのだな。つまり、ブラックリストもオレの手に――」
「――渡るのは阻止しろと言われてます」
「何だと」
「林原さんからブラリ登録の申請があってもよほどでなければ無視していいとメールで言われました」
「ほう…?」
バイトリーダーの仕事を頼む、と言っておきながら自分の代役にはしっかり釘を刺している辺り抜け目のない人だと。
「ま、今日はよほど人が来ることもあるまい」
「そうですね」
「川北、春山さんにメールを送っておいてくれ」
「何て送ればいいですか?」
「遅くても2週以内に戻らなければあなたの座る椅子はありませんよ、とでも」
end.
++++
情報センターにももう少し人がいてもいいかなと思った結果、UHBCのミドリがメンバーに加わったよね!
春山さんの奔放っぷりにリン様がイライラカリカリしてると楽しいよね! それを見た上で淡々としてるミドリとか。
そうか、リン様にも後輩が出来たのね……リン様どんな先輩なんだろうか、これから楽しみだなあ。